今回はウエストパック銀行(WBK)のファンダメンタル、チャート分析をやっていきたいと思います。
オーストラリアの銀行で、高配当で有名な株ですね。
目次(クリックで飛びます)
豪州株の魅力
ウエストパック銀行はオーストラリアの四大市中銀行の一つで、商業銀行に区分されます。時価総額ではオーストラリア・コモンウェルス銀行に次いで2位。
なぜ2位なのに注目されているかというと、ADRで買える豪州株がこれくらいしかないからですね(あとはメジャーどころでBHPビリトンくらい)。
豪州ADRは配当課税がない
豪州ADRはイギリスと同じく、配当の二重課税を避けることが可能です(日本の20.315%のみ課税)。
米国では外国税額控除で一部返還されるとはいえ最大30%近く持って行かれることを考えると税制上有利な投資先ということになります。
なぜ豪州株は利回りが高くなるのか
豪州株はどれも高配当株ばかりで、日本の証券会社から買えないのが残念なところです。
なぜこんな高配当が多いのかと言うと、豪州には配当インピュテーション制度というものがあるためです。
豪州では配当は総合課税となっていますが、法人税と配当課税を相殺することが可能になっており、節税効果が大きいのだとか(フランキング・クレジットと言うそうです)。
もちろん高いGDP成長率であること、緩やかなインフレ、資源国としての強みもありますが、他国より配当性向、利回りが高い理由は制度の影響が大きいでしょう。
米国を上回るリターンも
ちなみに、豪州は100年以上の長期リターンで米国を1%も上回るというデータもあります(7.8%近く)。
過去のデータに従うなら豪州やスウェーデンへの投資も検討の余地は十分にあります。手数料さえ押さえられれば、ですが。
豪州の経済状況
銀行はその国の経済状況と密接に関わってきますので、チェックしておきましょう。実際ウエストパック銀行のアニュアルレポート後半にもやたら詳しく載っています。
安定したGDP成長率
豪州のGDP成長率は現在も2~3%近くを保っていて、安定的で緩やかな成長を持続させています。失業率は5.5~6%程度です。
GDP内訳としては半分以上がサービス業ですが、それでも資源国と言われるのは輸出に占める資源の割合が過半数を占めているため(以下参照)。
なお、石油については輸出品目にもありますが、8割方は輸入に頼っています。
1961年と2011年で品目変化は大きいものの、天然資源の高騰を背景にした注力領域の切り替えをしただけで、いずれも一次産業中心に変わりません。
インフレ率も1~3%で落ち着いています。資源国ながら理想的なんですね。インフレターゲットを2~3%に置いています。
人口は2500万人とあの土地の広さに反して少ないですが、近年も増加を続けています。生産年齢人口も増加している数少ない先進国です。
人口が意外と少ないということは国内消費市場が小さいことを意味します。このため製造業は育っていません。
また、労働人口不足は労働賃金の高騰に向かっていて、オーストラリアのマクドナルドはバイトでも最低時給17豪ドル(1500円くらい)だそうです。休日だと3000円超えるらしい。
政策金利について
Cash rateは政策金利の意味です。ちょっと前までスワップトレードの中心だった豪ドルですが、今は2%を切って1.5%という水準のため旨味が少ないです。
豪州は金融危機から比較的距離を置けていて、主に古典的な政策金利によるコントロールで調整してきました。
というか他国がどんどん量的緩和するので、レートを下げないと豪ドル高になってしまいますからね(相対的に高金利な豪ドルに資金が流入する)。
徐々に金利下げも限界に来ています。特にウエストパック銀行は金融業ですから政策金利動向には注意が必要ですね。
その他の指標
豪ドル安はオーストラリア準備銀行(中央銀行)の意図したもので、自国通貨安によって成長率、インフレ率を押し上げようとしています。
参考豪中銀:金利据え置き-豪ドル安で成長率やインフレ率押し上げも
ウエストパック銀行(WBK)の事業内容
さて、そろそろウエストパック銀行の事業内容について見ていきましょう。
事業内訳
商業銀行は個人から集めた預金を運用し、個人や企業への貸出することで収益を上げているため、業績は安定的です。
もう一つの区分は投資銀行と呼ばれ、こちらはレバレッジを活用した取引を重ねたハイリスク・ハイリターンのビジネスを展開しますので、金融危機時には大きく業績悪化します。
さて、ウエストパック銀行のビジネスは一般消費者向け(Consumer Bank)が半分くらいを占めています。
interestは金利収入、Non-interestは金利意外の収入です。トレード収益を除けばほぼ金利収入と言えるでしょう。
利益率は50%という超高水準にあります。すごいですね。
また、貸出資産の6割以上がMortgate(モーゲージ)で、要は住宅ローンです。これは豪州の主要4行すべて共通した特徴で、割合として非常に高いで。
豪州銀行株への投資には不動産動向を見なければいけません。
参考まで、例えば三菱UFJの決算を見ると貸出金に占める住宅ローンの割合は1割程度です。
ニュージーランドをはじめとした海外事業もありますが、9割はオーストラリア国内のビジネスです。当面は国内動向を押さえておけばOKだと思います。
一応ニュージーランドの住宅ローン市場でもマーケットシェア20%を確保しているみたいです。
競合
豪州におけるライバルは四大市中銀行の他3行ですね。4行で市場シェア8割を占め、ウエストパック銀行は2番手です。
- ナショナル・オーストラリア銀行:国内で最大の資産を保有している。海外事業不振で他行より若干業績に劣る。従業員の10%以上に当たる4000人リストラ断行。
- オーストラリア・コモンウェルス銀行:元々は中央銀行として設立。時価総額トップ、預金&住宅ローンシェアも4行の中でトップ。営業利益率も50%超で、各指標でウエストパック銀行とほぼ互角(利回りは脅威の8.3%!)。ただし18年にマネロンへの関与疑惑でCEO交代。
- オーストラリア・ニュージーランド銀行:オーストラリア3番手で、ニュージーランドでトップ。他と比べると海外展開に強い。
ちなみに銀行株セクターは豪州全体からアンダーパフォームが続いています。理由の一つに4行の不祥事が続出している点があります。17年の銀行税も影響が大きそうです。
そういった状況下ですが、豪州銀行の利益率は他国と比較しても全く見劣りしません。
例えば米国優良銀行と言われるウェルズ・ファーゴ(WFC)は利益率40%近くで、日本の三菱UFJは20%程度です。
市場
一部再掲です。
市場動向は以下を押さえます。マクロ経済の動向とか、押さえる部分はいくらでもあるのですが、とりあえず。
- 人口動態:人口増加にともなって預金も増え、貸出先も増え、収入が増えます。
- 設備投資:貸出先のメインとなる企業の設備投資は景気の先行指標でもあります。
- 金利動向(景気動向):金利が上昇=利ざやが増えて収入増
オーストラリアの人口動態や金利動向は先ほどまとめましたが、人口は増加傾向、金利は下落傾向でしたね。
米国が量的緩和を終わらせ、来る景気サイクルの反転に備えて再び金利を上げはじめたのと対照的です。
オーストラリアの住宅ローン市場
さて、ウエストパック銀行の投資を検討する上で必要なのは、オーストラリアの住宅ローン市場でしょう。
これもウエストパック銀行のアニュアルレポートにやたら色々載っていたので、余裕があれば見てください。
豪州の住宅ローン金利は政策金利の低下を反映して歴史的低水準(3.59%)にあります。
金融業界向けの政府調査などにより金融機関が投資家向けローン金利を引き上げることは困難になるとし、25年続いた融資側の強気市場には終わりが来ると見ている。
ただ一方で政策金利の下げ幅ほど住宅ローン金利は下がっておらず、依然として強力な価格影響力を有していることが分かります。
金利低下により不動産市場は活発化していて、シドニーは今やロンドンやニューヨークよりも高い住宅地になってしまいました。
オーストラリア国立大学の調査で、将来の世代は家を買えないと考える豪州人の割合が9割近くに達するなど、有権者の怒りは増している。火種の一つが、住宅を投機的な金融資産に変えた税制上の投資家優遇策だ。
これは酷いw
でも本当に高いみたいですね。カナダも投資家優遇プログラム打ち出したら中国人が押し寄せてきて、慌てて中止したんだっけ。
今までが銀行優位の環境で、今後ちょっとだけネガティブになるかもしれないと理解しておきましょうか。
リスク要素
不祥事は既に洗い出されていると思うので、なんとかしてもらうことを期待しておきます。
リーマン・ショック時の動向
豪州経済の安定感をもってしても、金融危機にマイナス影響が大きくなるのは銀行として仕方ないところ。
後ほどチャートを見る通り、28ドルから9ドルまで1/3以下になりました。
また同時期は流石に減配していますので危機に強い銘柄ではないということです(利回り10%超になったけども)。
それでも配当性向100%の範囲で配当支払いは継続していた実績から、インカムへの信頼は十分あると思います。
不動産市場の動向
不動産市場の影響が大きい点は見た通りです。
農業に大量の水を使うため、水不足も深刻な問題になってますね。
あと個人的に気になるのがオゾンホールの問題で住めない地域が出てこないかという点ですかね。回復しているというニュースも聞くし大丈夫かな?
私も一度だけオーストラリアに行ったことがありますが、街中歩く人みんなサングラスしてるんですよ。UVカットのやつ。
理由はもちろん紫外線が強いためで、オーストラリアのがん患者の半分が皮膚がんです。
余談ですが、オーストラリアで一番印象に残っているのは農家に泊めてもらったことです。
家の広さが4ヘクタール(笑)あって、「Come on!」と手を叩くと馬がとっとことっとこ群れをなして集まってきました。羊だったっけ?
間食含めて5~6食出され(死ぬ気で食べたよ)、オーストラリア特有と言われる乾いた咳が出る風邪に見舞われて帰路に着きました。
でもまたいつか行きたいですね。
中国景気、資源価格の影響(豪州経済の弱点)
豪州最大の貿易相手国は中国です。だいたい3割くらいを占めています。中国は急速な経済成長に伴って大きくなった資源需要を豪州で満たしています。
華僑の移住も多く、中国経済との結びつきは一層強まっていると言えるでしょう。
ちなみに2位は日本になったようです。
また、資源価格は豪州経済を直接左右する要素になります。主な輸出品目となる石炭、鉄鉱石はここのところ下落傾向にあります。
あるいは代替エネルギーや環境保全活動も豪州経済に逆風ですね。
フィンテック
豪州の金融インフラは整っているので、フィンテックのサービスに取って代わられるというより、ベンチャーの新しい金融サービスをウエストパック銀行のような大手銀行が買収していく形じゃないかと思います。
新しい技術がなんでも普及するのではなく、社会の問題を解決出来る新しい技術が普及するのです。
例えば日本のように金融インフラの整った国ほどフィンテックによる新しい金融サービスは限定的な付加価値しか提供出来ないので、大きな参入脅威にならないのではと思ったりします。
ウエストパック銀行(WBK)の財務分析
PL
営業利益のデータが抜き取れず当期純利益になってますね。利益率は50%以上あり、驚異的な高水準です。
リーマン・ショックでは流石に凹んでいますが、地道に右肩上がりの回復を見せています。
BS
銀行業なので固定資産がほぼすべてを占めています。私達の銀行預金は銀行から見れば他人資金になりますから。
ということで、安全性は財務データから読み取るより事業基盤等から考えたほうがいいですね。
自己資本比率上手くデータ抽出出来てないっぽいですが、10%以上あります。バーゼル3の国際業務基準が8%だものね。
CF
キャッシュフローが安定していません。
投資CFはほとんどないんですが、営業CFが度々マイナスに振れるのは良い傾向ではないですね。
株主還元指標
直近配当利回り:6.69%
配当利回りは脅威の水準です。自社株買いはほとんどやっていません。
将来の期待リターンを5%程度で見積もった場合、アウトパフォームが期待出来るとも言えます。
もちろん維持できればという条件つきなので、そんな上手くいくとも限りませんが笑
実際のところ金融危機のあった2008~2010年に減配していますので、景気動向に影響を受けやすい銘柄だと認識しておきましょう。一応無配転落はしていないです。
ウエストパック銀行(WBK)の株価、チャート分析
とりあえずリアルタイムチャートのリンク置いておきます。
過去の最高値、最安値
- 最高値:34.89ドル(2013年6月)
- 最安値(リーマン・ショック後):8.80ドル(2008年11月)
目立つのはリーマン・ショック前後の大幅下落ですね。すぐ持ち直していますが。
だいたい20ドルを境にして、10~20ドルと、20~30ドルの2つのレンジが見えます。
大丈夫だと思いますが、キャピタルゲインを求めて買う株ではありません。
今後の値動き予測
5年チャート
13年に頂点をつけてから、ここ5年はずっとレンジ~やや下落傾向にあります。
20~21ドルあたりがサポートとして非常に堅いラインなので、目安にするならやはりここでしょうか。
1年チャート
直近の下落はむしろチャンスに見える。決算内容的には悪化しているわけではないです。
ウエストパック銀行(WBK)の投資戦略
まとめます。
- 豪州2番手の銀行で、シェアは22%ほど。オーストラリアは人口増、GDP成長率2%維持の好環境。
- 利益率が50%近くと非常に高く、内訳としては住宅ローン収入に2/3が偏っている。
- 豪州の不動産市場は歴史的低金利と投資家優遇プログラムもあって高騰している。
- 最近は豪州銀行の相次ぐ不祥事もあって株価が下落傾向にあり、相対的に割安。
- 配当還元に積極的で利回りも6.6%で良い水準。ただしリーマン・ショック時には減配も。
- チャート的には20ドルあたりが下限の壁。
回答
インカム狙いでかなり良い株だと思います。
不祥事絡みで株価も割高ではなく、しばらく高い利回りが期待できますし。
個人的にはウェルズ・ファーゴを買うならこっちのほうが良いかな。投資対象的にはPFFあたりと競合するかもしれませんね。
関連記事です。
同じ銀行株でいくつか分析記事を書いています。米国のウェルズ・ファーゴ(WFC)はバフェット銘柄としても有名な銀行株です。
高配当ADRといえばロイヤル・ダッチ・シェル(RDSB)という選択肢もあります。エネルギーセクターは全体的に軟調です。
豪州株ADRで配当の二重課税を避けられるといっても、日本の20.315%は課税されます。
日本株の配当であれば総合課税にすることでさらに下げることが可能(配当控除)なので、日本の高配当株も検討してみてください。
これまで調査してきた米国株の個別銘柄記事リストをまとめました! 企業名クリックで各詳細記事に飛ぶことが出来ます。
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ウェルズ・ファーゴ | WFC | 金融 | 商業銀行 |
JPモルガン・チェース | JPM | 金融 | 商業銀行、投資銀行 |
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ウエストパック銀行 | WBK | 金融 | オーストラリア銀行 |
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ブリストル・マイヤーズ・スクイブ | BMY | ヘルスケア | 医薬品(オプジーボ他) |
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ユニリーバ | UL | 生活必需品 | パーソナルケア(Dove、LUX) |
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マクドナルド | MCD | 生活必需品 | マクドナルド |
スターバックス | SBUX | 生活必需品 | スターバックス(スタバ) |
ウォルマート・ストアーズ | WMT | 生活必需品 | 大型店舗小売 |
コストコ・ホールセール | COST | 生活必需品 | 会員制小売 |
ホーム・デポ | HD | 生活必需品 | DIY小売 |
フィリップ・モリス | PM | 生活必需品 | たばこ(マルボロ) |
アルトリア・グループ | MO | 生活必需品 | たばこ(マルボロ) |
レイノルズ・アメリカン | RAI/BTI | 生活必需品 | たばこ |
アンハイザー・ブッシュ・インベブ | BUD | 生活必需品 | バドワイザー |
ナイキ | NKE | 生活必需品 | スニーカー(ナイキ・エア) |
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エクソン・モービル | XOM | エネルギー | 石油メジャー |
シェブロン | CVX | エネルギー | 石油メジャー |
ロイヤル・ダッチ・シェル | RDS.B | エネルギー | 石油メジャー |
ボーイング | BA | 資本財 | B787ドリームライナー |
ロッキード・マーティン | LMT | 資本財 | ステルス戦闘機F-35 |
ユナイテッド・テクノロジーズ | UTX | 資本財 | 航空機エンジン、エレベーター |
キャタピラー | CAT | 資本財 | 建設機械(油圧ショベル他) |
ゼネラル・エレクトリック | GE | 資本財 | 照明、航空機エンジン |
テスラ | TSLA | 自動車 | 電気自動車(EV) |
スリーエム | MMM | 素材 | ポストイット |
デューク・エナジー | DUK | 公共 | 電力、ガス |