事業ライフサイクルの短い時代の生き方を考える

市況解説、投資小ネタ

多くの業界で年々事業(商品)ライフサイクルが短くなってきています。

これは私達の投資方法のみならず、生き方にも影響が出てくる問題だと思います。ちょっと考えごとをしてみましょう。

(出典:経済産業省)

(出典:中小企業研究所)

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短命化していく事業

事業ライフサイクルが短くなるというのは、イメージとしては以下のようにライフサイクルの「成熟期」が消え、次の新製品の「成長期」が取って代わってしまう状態ですね。

(出典:ARK)

理由はいくつもあるでしょうが、これから長くなる企業と短くなる企業の二極化が進むと思っています。もちろん多くの企業では短くなります。

  • 技術革新が指数関数的に進む(技術高度化、複雑化)
  • グローバル化して単純に競争相手が増えた
  • ITをはじめとした外部からの破壊者が業界構造ごと変えてしまう
  • ニーズが多様化して画一的なプロダクトがヒットしにくい、流行り廃りが早い

私の主観ではなく、ちゃんと統計取ったものは以下。ニーズ変化の早さが大きいようです。

(出典:経済産業省)

成熟期がないというのは、プロダクトポートフォリオマネージメント(PPM)的に言えば、「金のなる木」に留まれないということです。

(出典:innovetica)

企業は次から次へと儲けのタネを探して自転車操業を強いられることになります。これは私達に無関係ではありません。

大昔、事業ライフサイクルは100年だった

中世の時代、ひとつの事業は100年以上続いていたのです。そのくらい技術革新というのは緩やかでした。

100年続くということは、非常に安定しているということ。つまり職人を生みました。

だって一つの技術を極めると、文字通り「100年飯を食っていけた」わけですよ。当時の平均寿命は今より短いですから、100年なら3代くらいが後を継ぐことが出来たはずです。

 

職人が良質の手工業品を作れば、それを聞きつけた行商人がやってきて、高く買い取って行きます。それが売れると分かると行商人がどんどん増えて取引が活発になり、街が賑わっていきます。

人が増えて活発になった街には多くの住民が定着します。すると今度は露店を開いて食べ物を売る街商人が住み着き、ぶどう酒を振る舞う酒場と宿が経営をはじめるでしょう。高利貸しや両替商はもっと儲かりそうですね(15世紀にはキリスト教でも高利貸しが暗黙的に認められて、成長が加速しました)。

一つの工業が発展することでその周辺が潤い、都市全体が一つの経済として循環するのです。

力を得た都市は、国王への多額の納税と引き換えに、都市の自治や通行税免除といった特権を授かりました。次第に強大化した都市は軍を配備し、もはや一つの国家のように振る舞うようになりました。

そんな当時、商工業者の集まりをギルドと呼んでいました。例えば、ドイツ中世では職人が集まって手工業ギルドを形成し、親方(マイスター)を師範とする徒弟制度で技術を継承していました。

※ちなみに、ドイツでは大商人への反発からツンフト闘争を起こして職人の地位を高めました。ギルドのマイスターは国政へも進出し、その後長らく特権的利益を得ています。

こういった安定した時代が数百年続いたのです。運悪く技術の転換点に合わなければ、昔はひとつのことを極めれば良かった。

そして安定の時代が崩壊した原因は産業革命でした。機械という技術の革命が事業の寿命を劇的に縮めたのです。

現代社会は成長が速すぎる

それにしてもこの100年はあまりにも急激な成長だったと思います。

いつの間にか空を飛べるようになり、世界の隅々まで開拓されました。スイッチひとつで世界を破壊する兵器も作ってしまいました。やがて人間よりも優秀な人工知能が登場するでしょうし、人類が機械化して寿命が消える日も来るかもしれません。

次の100年でどこまで行くのか、正直そら恐ろしい思いもあります。

AI(人工知能)のある未来を考えてみる(2045年くらいの未来社会)

事業ライフサイクルの早い業界

事業ライフサイクルが早まっているということは、今日において絶対的な企業が潰れるリスクは過去よりも上がっているということ。

ITがオールドエコノミーを破壊している昨今、過去数百年の名企業も例外ではありません。

ということで、ここ10年くらいの事業ライフサイクルの変化について資料で見てみます。ものづくりに関しての調査のため、業界は偏っています。

参考第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題

以下に見るように、製品のライフサイクルは5~10年がボリュームゾーンです。電気機械は特に短い傾向があり、まあ考えるとスマホとか四半期ごとに出してるよなあと。

(出典:経済産業省)

逆に化学工業は案外長いですね。

この業界は景気敏感株が多いのですが、長生き出来るという意味で安定性にプラス評価していいかもしれません。米国株ならスリーエムとかでしょうか。以前詳しい分析記事を書きました。

【米国株】スリーエム(3M:MMM)銘柄分析【連続増配株】

ただ、冒頭の調査では「以前よりライフサイクルが短くなっている」という回答が30%だったので、今後は変わっていく可能性もあるでしょう。

対策

企業としては、せっかく開発した製品がなるべく長く続くように、何かしらの対策を打っているのでしょうか。

取り組みについて見た結果が以下になります。

(出典:経済産業省)

だいたい思った通りの内容ですが、「特にない」が25%近くある……。笑

方向性としては以下の3パターンになります。

  • 事業領域を変える(ニッチ&ブルーオーシャンへ):小さな市場でナンバーワンを取る
  • ブランド化戦略:同じ商品であることに付加価値を創り出す
  • マーケティング強化:ニーズにミートし続ける

あと個人的に考える変化は以下のようなものでしょう。

素早い意思決定=R&D増加

とにかく時間がなくなっているんですよね。

日本が得意としてきた後追い(フォロワー)戦略は、コスト優位性の面で中国に不利を取っていますが、今後は事業ライフサイクル的に間に合わない可能性が高くなります。

遅い遅い意思決定ではなく迅速な行動とトライ・アンド・エラー。

最初から完成形を狙わず、まずお試しでやってみて、ちょっとずつ改良していく方が良いです。完璧主義の日本には苦手なやり方かもしれません(弊社を見ても……笑)

時間の節約という意味では、やっぱりM&Aが効果的です。

M&Aの実態についても以下でかなり詳しく書きましたが、件数はおよそ2500件、金額は15兆円前後と、まだまだ少ない印象でした。

M&Aの傾向分析 M&Aを投資戦略に組み込む(日本株編)

サービスビジネス&エコシステム

所有しない時代ですから、物売り中心のビジネスからサービスビジネス中心に考えないとダメですよね。

サービスビジネスの何がいいかというと、顧客の囲い込みがしやすいところ。

モノを売ると売り切りで終わってしまいがちですが、サービスであれば絶えずアップデートをかけてユーザーを掴み続けることが出来るのです。

例えばマイクロソフトがWindows10を最後のOSにすると宣言しました。ここから先はアップデートをするだけでずっと使えるよと言ったわけです。

かつて事業のほとんど全てをライセンス販売で稼いでいた頃は考えられない話です。だってその頃はOSを新しくするだけで世界の数億台のパソコンで買い替え需要が生まれ、その度に大儲け出来たのですから。

ところが今やOSなんてマイクロソフトの売上の1割程度しか占めていません。

【米国株】マイクロソフト(Microsoft:MSFT)の銘柄分析

マイクロソフトとしては、ライセンス販売で稼ぐのではなくOSやOfficeといった製品を入り口にして、他で稼ぐビジネスモデルへ転換しようとしています(エコシステム化)。

ユーザー情報をビッグデータとして集めるとか、出口はたくさんあります。

所有しない時代の象徴として、シェアリングエコノミーというものもあります。

シェアリングエコノミーは未来の経済社会になるか

投資におけるチャンスとリスク

事業サイクルが早まるということは、投資においては良い面と悪い面でそれぞれ影響が出てきます。

一年で大化けする株が増える

一つの新製品があっという間に市場を席巻するので、短期のうちに業績が急拡大する傾向にあります。

以下は新規技術の普及速度グラフですが、傾きがどんどん急になっていることがわかると思います。

近年はアーリーアダプターの割合が増加しており、「良いものは広まって売れる」時代です。

(出典:Visual Capitalist)

こうしたビジネスを取り扱うスタートアップなど、早いうちから仕込んでおいた株が当たった場合は億万長者の近道になるでしょう。

同じこと考えてる人は多いのでバリュエーションは既にないですが、本物はそれを踏み越えてあがります。本物を当てられれば。

既存ビジネスが取って代わられる

逆に言えば、既存の大手でもリプレイスされた場合に巻き返す時間がなくなってしまいますね。

ここ25年くらいのS&P500時価総額推移を見ると、明らかに増えたのは金融とIT、減ったのは通信や化学、エネルギーといったオールドエコノミーに属しています。

(出典:BESPOKE)

対策

ここだけ聞くとITに投資すればいいんだってなりそうですが、それは選択肢の1つです。

  • 新興企業の中でも有望そうないくつかに投資して、その中で1本当てられれば収支が取れるようにポジションサイジングする
  • テクノロジーに侵食されにくいオールドエコノミーを買う
  • S&P500やVTI、あるいはVTなどの市場平均を買う

一番下が考えること少なくて済むのでオススメですね。

株式市場がなくなるリスク

絵空事ですが、株式市場そのものがなくなることはあるのでしょうか。

例えばフィンテックによって直接金融的な資金調達が可能になった場合、株式という資金調達手段が消えることはないのかと。

個人間だとビットコインで既に実現してますよね。クラウドファンディングみたいな、もう少し規模の大きい資金調達手段も金融市場を介さず出来ています。

以下の記事で新しい経済について考察しました。

経済成長が止まる時代にゲゼルの理論とか個人的には好きです。人口が減って世界の終わりに近づくと、こんなふうに原初的な生き方に戻っていくのかなあとか思ったりします。

【未来図】小さな経済圏という未来社会と、クラウドファンディングの可能性

 

ま、当面なさそうですけどね。今の株主がオーナーとして権利持ってることや、銀行の貸し先がなくなって信用収縮が起きることを考えると。

色々考えていることなので、別記事でなんか書けたらいいなあという感じです。

ひとつの技術では生涯安泰ではない時代

専門職の将来性についても考えておきたいです。

人は誰でも固有のバックボーンがありますので、キレイな言い方をすれば誰でも何かしら得意なことがあって、専門があります。専門というのは飯のタネです。

しかし、技術革新のスピードを見ていると、ひとつの技術を極めても生涯安泰とはならないのではないかと。

それでもゼネラリストにはなりたくない

だからってあれもこれもやるのは非効率です。専門性は絶対に必要。

逆に日本の大企業が大好きなゼネラリストって無駄の塊ですよね。

経験することに意味があるというのは卑怯な言い方で、やってみて意味がひとつも見出だせないことはまずありません。

ただ、時間は有限なんですから、やることの投資対効果を考えて優先順位をつけるべきです。

私達は投資家ですから、投資における投資対効果を考えるように人生における時間対効果を考えて何をすべきか選別していきたいですね。

2つ以上の専門を持つことが鍵になる

誰が言い出したのか知りませんが、「T字型人間」とか聞いたことあるでしょうか。

「T」の文字のごとく、自分の強みを縦と横の2軸で持てという話です。

これには同感です。ひとつの専門性では食っていけないけれど、2つの専門性を掛け合わせられるライバルはほとんどいないのです。3つ、4つとあればなお良し。

100万人に1人の人材になるためには、100人に1人という専門能力を3つかけ合わせれば達成できます。

収入も分散、強みも分散

今回のネタはあらゆる応用が効く話です。

自分の会社もサラリーマンとしての給料も安泰ではない時代で、収入源を分散させることは理に適っています。

それどころか、生きる上で必須と言っていいでしょう。

当ブログのプロフィールなんかでも色々と書いてますが、私も色々な収入源を作ろうと活動しています。投資や投資関連業務、ブログ系、Web系ビジネス、アプリ開発、小説やお絵かきなどなど。

自分の好きなことでもあるので、時間とお金を投じて磨いていき、出来る限り自分の技術優位を背景にした収入源にしたいですね。


ハイプ・サイクルと一緒に事業ライフサイクルについて触れました。良ければ合わせてどうぞ。

事業ライフサイクルとハイプ・サイクルから、投資戦略について考える

 

過去のデータと未来の変化と、どちらを信じるべきかという話題です。今回の記事と被るところも多いです。

【過去と未来】投資・資産運用における主な論争wについてまとめてみる(後編)

 

市場拡大の傾向について調査した記事です。

世界自由貿易による物理的な市場拡大から、金融ITによる仮想的な市場拡大、そして今後の市場拡大余地について考察しています。

これまでとこれからの市場拡大について考える
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