今回はナイキ(NKE)のファンダメンタル、チャート分析をやっていきたいと思います。ナイキのシューズは家に一足くらいはあるんじゃないでしょうか。
目次(クリックで飛びます)
ナイキ(NKE)の事業内容
ビジネスを3Cで分解してみましょう。
事業内訳
ナイキは売上高世界一のスポーツ用品メーカーで、同社のNIKEブランドのフットウェアやアパレルが有名ですね。
斬新かつ機能的な製品開発力と、トップアスリートとの専属契約によるマーケティング戦略及びオリンピック等のスポーツイベントへの広告投資の両輪で市場シェアを拡大してきた企業です。
また、経営形態としては自社工場を持たないファブレスメーカーで、製品の大半をアジアで製造しています。では、早速決算書を見てみましょう。
売上項目の内訳からナイキの事業の実態を理解します。
- Footwear:フットウェア、つまりシューズです。これが全体の6割近くを占めていますね。「ナイキ エア」は軽くて履き心地も良いシューズです。
- Apparel:アパレルはフットウェア以外のスポーツウェアが中心になります。これが全体の3割近くを占めます。
- Equipment:その他のスポーツ用品機器になりますね。
- Global Brand Divisions:注釈を読むと、グローバルセグメントに属さない部分で、海外でのナイキブランドのライセンス収入だそうです。
- Converse:スニーカーなどを製造販売するナイキの子会社です。コンバースとハーレーはナイキの買収したブランドの中でも大きなシェアを有しています。
他にもいくつかの面白いデータがあります。以下によると、wholesale(卸売)への販売が全体の7割以上と多くなっております。しかしながら、成長率で消費者へダイレクト販売が増えており、「NIKE+(ナイキプラス)」のようなオンラインサイト強化で今後傾倒していきそうです。
男女比では男性向けが女性の約3倍と、偏りがあるみたいです。逆に言えば、女性向けというのは今後のキーワードになると思います。
スポーツ用途ごとの売上も載っています。フットウェア製品が多いこともあってランニングの占める比重が大きく、あとは広義ですがスポーツウェアも大きくなっています。スポーツの中ではバスケやフットボールが個別にあるため、それだけナイキブランド愛好家が多いということでしょうか。
また、ナイキは米国でのスポーツ用品売上ナンバーワン企業ですが、海外売上比率が5割以上となっているグローバル企業でもあります。製造を中国東南アジアに委託することで価格競争力もあり、ブランド戦略で世界中に浸透しています。
特に中国は成長率23%、日本は15%とアジア圏が急拡大している市場です。
競争激化について
スポーツ用品のブランド価値はアパレル系ほどではなく(あっちはシャネルやグッチなど青天井ですよね)、トップシェアとはいえマージンは大きくないビジネスです。
つまり、競争の激化によるコモディティ化の懸念があります。
- 売上成長の鈍化:前年比で7%成長しているものの、これまでより拡大ペースが鈍化……アンダーアーマー等の競争激化で、シェアは奪われている?
- 成長市場の中国で23%上昇:良好な結果ですが、直近の9%成長はこれまでの毎期2桁増と比べると少しだけ失速気配?(と書いてある記事が多いのですが、まだまだ好調と言っていいレベルと思います)
- 在庫が7%上昇:元々シビアな在庫管理でコスト削減をしてきた企業ですが、ここにきて7%の在庫増となっています。これを成長鈍化の裏付けと捉えるか、オンライン販売強化のために在庫を抱えていると捉えるかは難しいところです。
ブランド価値を有する事業モデルではありますが、ナイキの営業利益率は15%前後と、トップシェア企業にしてはそこまで圧倒的ではない数字です。
競合
競合はアディダス、アンダーアーマー(UA)が有力で、これらとの競争激化によって成長が鈍化している傾向は否めません。
アディダスとの格闘について、以下のサイト様の記事が大変素晴らしいものですので、ご一読をオススメします。
アンダーアーマーについて私はよく知らなかったのですが、96年の設立から現在の米国市場においてはアディダスを抜いて2位、世界でも3位に急成長している新興のスポーツ用品メーカーみたいですね。特に若い世代に人気のようです。
アンダーアーマーの戦略に、将来のトップアスリートへの先行投資があります。私達がスポーツ用品を購入するとき、「(トップ)アスリートはどこの製品を使っているか?」という点を重視するのではないでしょうか。大きなマージンを得にくいスポーツ用品ビジネスにおいて、トップアスリートとの専属契約というのは、ブランド価値をもたらす最重要項目の一つなのです。
ところが、有望な選手はナイキやアディダスと契約されてしまいますので、アンダーアーマーはトップアスリートになる前の「金のたまご」を青田買いを将来に向けた先行投資として進め、ブランドイメージを形成しています。それは当然、アンダーアーマーの製品自体が優れていることが前提にあります。
参考アディダスを抜いた? なぜ新参者の「アンダーアーマー」が老舗をおびやかすのか (1/7)
ちょっと古い12年のデータですが、世界のスポーツ用品メーカーの売上比較がありました。今は3位の座にアンダーアーマーがあり、その下にプーマ、アシックスと続きます。
こっちだと3位以下の売上に変動がありますが、ビジネス+ITはいつも全売上高でランキングにしているので、おそらく他のビジネスでの売上高を含めているものと推測します。
市場
ちょっと古いですが、スポーツ市場の拡大について以下の資料が参考になります。
ロジックは以下にある通りで、スポーツというのは世界中の誰もが遊べる娯楽なので、人口が増加するということがそのままスポーツ市場の拡大に繋がります。特に新興国で購買力を有する中間層が増加することが追い風になります。
リスク要素
コモディティ化
上に書いたように、ビジネスモデル的にはコモディティ化の懸念があります。ナイキのブランドであれば大丈夫かとは思うのですが。
技術革新のある業界
意外な話かもしれませんが、スポーツ用品というのは技術革新と切っても切れない関係にあります。
スポーツ選手というのはルールの中で最も良い結果を出すために用具を選びます。そのために、メーカー側も常に新製品の開発を進めており、時折革新的な製品がアスリートによって見出され、市場を席巻することがあるのです。ナイキ自体も「ナイキ エア」の開発によって市場シェアを拡大した企業ですしね。
他にすぐ思いつく例は、英スピード社が開発した競泳水着「レーザーレーサー」です。身体に密着するような水着で空気抵抗を極限まで減らした同社製水着は、北京五輪で金メダリストを量産しました(イアン・ソープの記録が破られたりしましたよね)。
あるいは逆の例として、オフィスチェア業界では既存の家具メーカーのみならず、スポーツ業界からレーシングカーの技術を持ち込んだり、IT業界から人体工学を持ち込んだりして、競争が激化していたりします。
ちょうどIoTでウェアラブルデバイスも本格化しますので、健康管理のため、トレーニングメニューを考えるため、シューズにチップを埋め込むことは十分な技術革新といえるのではないでしょうか。
グーグルを見ていると、ソフト屋がハードウェア事業へ進出することは中々難しいとは思うのですが、スポーツ用品には技術革新という発展余地が残されたビジネス領域があり、トップブランドの座に胡座をかいていられないことは記憶に留めておきたいです。
裏を返せばこうした領域を取り込めればナイキはさらに成長するということです。こうしたハイテク産業との融合はナイキの得意とするところで、ウェアラブルデバイスの開発も進めているようです。
ブーム
ブームが去ればブーストもなくなるのですが、ナイキは特定のスポーツ用品メーカーではなく、どのスポーツにも使うフットウェアを主力にしているので、リスクじゃなくてメリットですね。
山ガールとかなんとか、珍しいスポーツにスポットが当てられると、まず用具を買い揃えるでしょうから、ブームの数だけ収益機会が増えそうです。
トランプリスク
生産拠点を海外に持つナイキにとって、国内雇用を生み出そうとするトランプの政策には反対の立場です。
ドル高による収益圧迫
いつもの話ですが、海外売上比率の高い企業であり、製品製造拠点も海外にあるナイキにとってドル高は決算の悪化要因になります。
ナイキ(NKE)の財務分析
PL
競争が激化している中でも売上規模拡大中であり、直近決算ではやや成長率に陰りが見えると言われてはいますが、全体的に事業は好調と思います。EPS成長も素晴らしいです(ある程度は自社株買い効果もあるとはいえ)。
利益率14%は市場平均をわずかに上回る程度で、業界トップクラスのシェアを持っている企業にしてはむしろ低い印象があります。ROEは20%を超えていて高水準です。
BS
バランスシートの健全性は非常に高く、ファブレスメーカーなので固定資産も少ないです(事業維持のための設備投資が少なくて済みます)。
CF
高い営業キャッシュフローを持っており、投資の少なさと合わせて余剰は十分にあります。
株主還元指標
わずかな比率ながら配当は増配傾向にあります。まだ配当性向は30%以下の水準で、当面上げる余地もあると思っています。
自社株買いは結構頻繁にやっており、総還元性向は100%を超えています。
直近配当利回り:1.12%
ナイキ(NKE)の株価、チャート分析
とりあえずリアルタイムチャートのリンク置いておきます。
過去の最高値、最安値
リーマンショックの影響もこのチャートだとほとんど見えないくらいですね。回復基調に合わせて株価が伸長し、次々と高値を破っています。16年あたりからは反転して下落に入っていますが。
- 最高値:68.19ドル(2016年)
- 最安値:9.56ドル(2009年)
16年あたりに悪い決算が出たような感じではありませんでしたので、単純に需給や事業競争激化を受けての反応なのでしょうか。
今後の値動き予測
5年チャート
一時的な反転というよりも、多少なりともトレンド転換、調整に入ったと見えるようなチャートです。下に向けてパワーを溜めていっているような感じなので、50ドルのサポートラインはそのうち割るかもしれません。
1年チャート
16年以降の下落トレンドの中で、細かく上下動しています。50ドルがサポートラインで、ポイントになりそうなところです。
ナイキ(NKE)の投資戦略
適当にまとめます。
- 世界最大のスポーツ用品メーカーであり、事業内訳としてはフットウェアが6割、アパレルが3割である。
- ナイキは海外売上比率が5割を超え、中国等のアジア圏での成長が著しい。
- 業界ではアディダスやアンダーアーマーとの競争激化している。
- チャートは16年に山をつけてから少し下降路線を辿っている。
回答
スポーツというのは有史以来人類と共にあった世界共通の娯楽です。今も未来もスポーツは世界中の人々に熱中させるものですから、スポーツ産業のトップシェア企業には強い事業継続能力があるものと考えています。
ナイキの主力であるフットウェアは、室内外を問わず必要とされるものです。スニーカーのように日常生活で使う商品も有しており(米国だと家の中でも靴を履いていますね)、ナイキブランドの浸透力は非常に高いと思います。
記事中で競争激化というキーワードを何度か使って来ましたが、ナイキにはブランド価値や技術的優位性が多くあり、将来に渡ってトップブランドを維持出来そうな印象を受けました。
チャート上では折り返しているので、もう少し下げてもらって、50ドル以下水準で打診買いしてもいいかもしれません。
ちなみに、スポーツをビジネス面から捉えた場合、マネタイズに問題を抱えている産業でもあります。収入源は観客のチケット収入やTV放映権料、スター選手やチームのグッズ販売等に頼ったモデルになっていますが、マイナースポーツであればあるほどこうした収入は少なくなります。
ナイキは選手と契約を結んだり、公式大会に出資をすることで、選手側にとってもWin-Winな形でスポーツの発展に貢献しています。そういった意味でも応援したい企業ですね。
これまで調査してきた米国株の個別銘柄記事リストをまとめました! 企業名クリックで各詳細記事に飛ぶことが出来ます。
企業名 (リンク先は分析記事) | ティッカー | 業種区分 | 主力事業、ブランド |
---|---|---|---|
アマゾン | AMZN | IT | ネット小売、クラウド |
アルファベット/グーグル | GOOGL | IT | 広告(検索)、AI |
アップル | AAPL | IT | iphone |
マイクロソフト | MSFT | IT | OS、Office365 |
フェイスブック | FB | IT | 広告(SNS) |
IBM | IBM | IT | クラウド、AI |
インテル | INTC | IT | 半導体(PC、サーバ) |
クアルコム | QCOM | IT | 半導体(モバイル) |
エヌビディア | NVDA | IT | 半導体(GPU) |
オラクル | ORCL | IT | ソフトウェア(DB) |
オクタ | OKTA | IT | オクタ |
シスコ | CSCO | IT | ネットワーク機器 |
アリババ・グループ | BABA | IT | タオバオ、Tmall、アリペイ |
テンセント | HKG00700 | IT | テンセント |
バイドゥ | BIDU | IT | 百度 |
ビザ | V | 金融 | 決済インフラ |
マスターカード | MA | 金融 | 決済インフラ |
アメリカン・エキスプレス | AXP | 金融 | 決済インフラ |
スタンダード&プアーズ | SPGI | 金融 | 格付け機関 |
ムーディーズ | MCO | 金融 | 格付け機関 |
ブラックロック | BLK | 金融 | 運用会社 |
ウェルズ・ファーゴ | WFC | 金融 | 商業銀行 |
JPモルガン・チェース | JPM | 金融 | 商業銀行、投資銀行 |
シティグループ | C | 金融 | 商業銀行、投資銀行 |
ウエストパック銀行 | WBK | 金融 | オーストラリア銀行 |
バークシャー・ハサウェイ | BRK.B | 金融 | バークシャー |
AT&T | T | 通信 | モバイル通信 |
ベライゾン・コミュニケーションズ | VZ | 通信 | モバイル通信 |
ネットフリックス | NFLX | 通信 | 動画配信サービス |
ウォルト・ディズニー | DIS | 通信 | ディズニー、ESPN |
ジョンソン・エンド・ジョンソン | JNJ | ヘルスケア | 医薬品(ステラーラ)、バンドエイド他 |
メドトロニック | MDT | ヘルスケア | 医療機器(ペースメーカー他) |
アボット・ラボラトリーズ | ABT/ABBV | ヘルスケア | 栄養補助食品、医薬品(ヒュミラ他) |
ブリストル・マイヤーズ・スクイブ | BMY | ヘルスケア | 医薬品(オプジーボ他) |
ファイザー | PFE | ヘルスケア | 医薬品(プレブナー、リリカ他) |
メルク | MRK | ヘルスケア | 医薬品(キイトルーダ他) |
ギリアド・サイエンシズ | GILD | ヘルスケア | 医薬品(ハーボニー他) |
CVS ヘルス | CVS | ヘルスケア | 薬局、PBM |
ユナイテッド・ヘルス | UNH | ヘルスケア | 医療保険、PBM |
P&G | PG | 生活必需品 | ビューティー(パンテーン、SK-II)他 |
ユニリーバ | UL | 生活必需品 | パーソナルケア(Dove、LUX) |
コルゲート・パーモリーブ | CL | 生活必需品 | オーラルケア(歯磨き) |
コカ・コーラ | KO | 生活必需品 | コカ・コーラ |
ペプシコ | PEP | 生活必需品 | ペプシ・コーラ |
ゼネラル・ミルズ | GIS | 生活必需品 | ハーゲンダッツ |
クラフト・ハインツ | KHC | 生活必需品 | チーズ、ケチャップ |
マコーミック | MKC | 生活必需品 | スパイス |
ホーメルフーズ | HRL | 生活必需品 | SPAM |
マクドナルド | MCD | 生活必需品 | マクドナルド |
スターバックス | SBUX | 生活必需品 | スターバックス(スタバ) |
ウォルマート・ストアーズ | WMT | 生活必需品 | 大型店舗小売 |
コストコ・ホールセール | COST | 生活必需品 | 会員制小売 |
ホーム・デポ | HD | 生活必需品 | DIY小売 |
フィリップ・モリス | PM | 生活必需品 | たばこ(マルボロ) |
アルトリア・グループ | MO | 生活必需品 | たばこ(マルボロ) |
レイノルズ・アメリカン | RAI/BTI | 生活必需品 | たばこ |
アンハイザー・ブッシュ・インベブ | BUD | 生活必需品 | バドワイザー |
ナイキ | NKE | 生活必需品 | スニーカー(ナイキ・エア) |
ギャップ | GPS | 生活必需品 | GAP、オールドネイビー |
エクソン・モービル | XOM | エネルギー | 石油メジャー |
シェブロン | CVX | エネルギー | 石油メジャー |
ロイヤル・ダッチ・シェル | RDS.B | エネルギー | 石油メジャー |
ボーイング | BA | 資本財 | B787ドリームライナー |
ロッキード・マーティン | LMT | 資本財 | ステルス戦闘機F-35 |
ユナイテッド・テクノロジーズ | UTX | 資本財 | 航空機エンジン、エレベーター |
キャタピラー | CAT | 資本財 | 建設機械(油圧ショベル他) |
ゼネラル・エレクトリック | GE | 資本財 | 照明、航空機エンジン |
テスラ | TSLA | 自動車 | 電気自動車(EV) |
スリーエム | MMM | 素材 | ポストイット |
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