今回はコストコ(COST)のファンダメンタル、チャート分析をやっていきたいと思います。日本でも人気ですので、知っている方も多いと思います。
動画も作ったのでどうぞ。
目次(クリックで飛びます)
コストコ(COST)の事業内容
ビジネスを3Cで分解してみましょう。
事業内訳
コストコは会員制の小売店で、生鮮食品から日用品、家電に衣服まで、幅広い商品がほとんど卸値と同じ価格で販売されていることが特徴です。
店内は巨大な倉庫になっており、メーカーから卸した商品をそのまま陳列する形式です。
世界中に806店舗あり、1/3は海外にあります。日本にも28店あるみたいですね。また、全世界で1億人を超える会員が存在しています。
ビジネスモデル
コストコは会員制のビジネス形態を取っており、年会費を払って会員にならないと買い物が出来ません。年会費は日本だと4400円、米国だと60ドル(プレミアム会員は120ドル)です。
会員制というのは優れたストック収入のビジネスモデルです。例えばスポーツジムや学習塾、携帯料金、アマゾンプライムなんかもそうですね。
前払いで利用料を取って囲い込みしてしまうと、「せっかくお金を払ったのだから」と自社サービスを利用しようというインセンティブが働きます。
そこで他の自社サービスと組み合わせることで消費者に依存させ、スイッチングコストを高めることによって、将来に渡って安定した収入源になるのです。しかもキャッシュが先に入りますので、資金繰りにも困りません。
コストコの場合、年会費に加えて商品が売れただけお金になりますので、会員制モデルによるリピーター獲得のシナジーが強い分野でもあります。
さて、コストコに話を戻して、20年の決算情報を見てみましょう。
コロナもありましたが、売上はずっと伸び続けています。利益は小売らしい低水準ですが、コロナ影響を感じさせません。
そして、グロスマージン(=売上ー仕入原価)は10%程度しかありません。本当にほぼ仕入れ値で販売しているということですね。一般的な小売業であれば30~40%は確保していると思います。
そして、この10%の中で人件費や倉庫等の固定資産維持費用を捻出すると、利益はほとんどゼロになります。コストコの営業利益率はずっと2~3%しかありませんからね。
ちょうどメンバーシップ収入(年会費)が2%程度なので、利益のほとんどは年会費からもたらされている、とも言えるわけです。
安定したストック収入部分が担保されているので、売るものを究極に切り詰められるとも言えます。
そして、こうした真に消費者の利益を追求する企業の姿勢は、消費者にもちゃんと伝わります。消費者の信頼はブランド価値という無形資産になって、バランスシートに見えない形で企業に大きな価値をもたらします。
コストコの年度更新(Renewal rate)は米国で91%とあることからも、顧客満足度の高さが伺えます。
コストコの価値
どうしてコストコはこれほど人気なのでしょうか。
一つは間違いなく安いから、もう一つは価値の高い人気商品をたくさん入荷しているから、最後にコストコというお店自体が「楽しい」という消費者体験に繋がっているから、だと思います。
まず、コストコはコスト削減が命なので、一般的な小売業とは違った事業運営をしています。
- 広告マーケティング:コストコは広告にお金を使いません。
- ディスプレイ:商品はキレイに陳列されるのではなく、ダンボールやパレットの上にそのまま乗せています。
- 仕入値下げ:大量仕入れによるディスカウントを行います。
- プライベートブランド:PB商品の質が高いと評判で、もちろん安価です。
- 商品種類:生鮮食品はもちろん、ワインやPBのベーカリーショップ、肉屋と魚屋、ダイヤモンドに家電に衣類まで幅広く
- 併設施設:フードコートや薬局など
また、私が注目したいのは、コストコの大きな倉庫を見て回ること自体の楽しみです。
よくよく考えてみて、いくら安いと言っても年会費払って遠出してピザやらお肉やらの買い物をしますか? 普通近所のスーパーで済ませてしまいますよね。
それをコストコまで引き込んでくるためのポイントが消費者体験です。
(前のIRからの引用ですが)下の写真を見ると、もはや複合施設やテーマパークに近い施設です。コストコは休日に家族や友達と行く場所なんですよね。
広いスペースなので歩き回ると一日潰せるし、フードコートも充実しています。せっかく来たのだからとカゴいっぱいに買い物すれば満足感も違うでしょう。
そもそも従来型のスーパーに飽きた消費者からすれば、新しい刺激としても歓迎されるわけです。
会員の囲い込みと消費者体験は、他の小売やアマゾンをはじめとしたネット小売とも異なる強みになるんじゃないかと思っています。
また、コストコはマスターカードと提携をしており、VISAやJCBなどは使うことができません。
以前はアメックスの独占契約なんかもあったみたいですが、コスト削減として削ったようです。カード手数料を節約し、増収増益に貢献したことになります。
さらに、価値の高い人気商品ブランドとして、自社PBのカークランドがあります。実に売上高の1/3近くがカークランドによるものです。
参考プライベートブランドの帝王「コストコ」が、成功している本当の理由
カークランドは日用品や飲料水、調理器具や寝具など様々ですが、安くて品質の良い商品ということでとても評判がよいです。
コロナ影響と変化
一見すると順調に売上を伸ばしているように見えますが、コロナ影響はいろいろな部分で出ています。
まず単純に、20年4月には10年ぶりに売上減少(前年同期比1.8%減)がありました。これはリーマンショック以来となります。
一方で、日用品などの分野では買い占め需要で売上が伸び、またネット通販も前年比で50%増の急進を見せています。食品デリバリーサービスとの提携でさらに利用者を増やしています。
ECサイトは後発も後発で、19年に売上の5%未満でしかありませんでした。現在は店舗売上を補完する形で伸びていっています。
参考コストコ 、ようやく EC に目覚める:「そこには本物の売り上げがある」
21年2Q決算を見ても、変わる情勢に適応して、順調に売上を伸ばしていますね。プライベートブランド商品の強みを有しているというのも、コストコの好業績を支える強みであるとわかります。
競合
店舗型の小売業としてはウォルマート・ストアーズ(WMT)に次ぐ2位の規模です。3位はセブンイレブン、4位はクローガー、8位にイオンと続きます。
参考コストコが2位! 売上高で見る、世界最大の食料品チェーン トップ10
ウォルマートについては分析記事を書いていますので、合わせてどうぞ。
ウォルマートもコストコのような会員制クラブ「サムズ・クラブ」を運営しています。
全体的な統計で低所得者層がウォルマート、中高所得者層や業者はコストコに行っているというデータもあります。ある程度の住み分けはされていて、消費者の質はコストコに軍配が上がります。
とはいえ、Eコマースという市場ではウォルマートに軍配が上がっています。アマゾンのシェアが圧倒的ではありますが、2位がウォルマート、コストコは9位という結果になっています。
しかしながら、潜在的な脅威としての競合他社はやはりアマゾンになるでしょう。アマゾンはもはやネット小売と評されるべきではないと思いますが……。
アマゾンがどこまで脅威になるかという点については両論あります。
私はコストコの価値を単なる価格の安さではなく、PB商品の良さや消費者体験に見ているので、かんたんにアマゾンに侵食されないのではと思っています。
一方で、クラウドのAWSで大きな利益を稼げるアマゾンにキャッシュフローの余力としては軍配があがることも事実です。
市場
米国小売市場は年平均3~4%で緩やかに拡大を続けています。4兆ドルを超えると言われる巨大な市場ですね。
また、先ほど見た米国Eコマースの小売市場としては現在6000億ドルで、10年連続二桁増と年々規模が大きくなっています。
2020年時点で小売全体の10%を超えたところですが、コロナ影響もあり店舗からネットへの傾向が加速することは必至です。
これらの傾向は今後も変わらないでしょう。食品や日用品小売がメインとなるので、人口が増えれば利用者も増えます。
2100年には112億人になります。コストコの顧客層に重なる富裕層が増えていくので、追い風になると思います。
リスク要素
アマゾンリスク
先ほど見たとおりです。Eコマースへ進出していくと避けて通れないですが、アマゾンに侵食されにくい領域の一つが自社ブランドの付加価値です。
コストコは店舗の楽しさも強みの一つですが、Webでは自社ブランド「カークランド」が強みとなると思います。
会員数伸び率の落ち込み
会員数は増えているものの、伸び率はやや鈍化しています。以前は10%以上の伸び率でしたが、このところは年5%を下回っています(20年度はまた持ち直してますが)
コロナ影響
店舗への来場制限や管理コストの増加など、業績にマイナス影響も大きいです。中国など海外進出にも影響は出ると思います。
とはいえこちらも日本で大成功したように、会員制ストアの独自路線が強みとして機能しているので、ECサイトと融合させつつ第二波第三波のコロナショックを乗り切ってほしいと思います。
コストコ(COST)の財務分析
PL
売上高はずっと拡大を続けています。会員数も中間層以降の層を相手に拡大しており、ビジネスの好調さが読み取れます。
一方で利益率は3%以下と小売の中でも最低水準です。コストコの経営方針が卸値とほとんど同じ価格で売るというものなので仕方ありませんね。
この僅かな利益の源泉は会員の年会費ですので、会員数や年会費の増減は注目です。
BS
自己資本はそれなりに多くなっています。小売なので現金収入が多め、固定負債は少なめになっています。
CF
投資キャッシュフローが大きくなっており、フリーキャッシュフローの余剰は小さいです。
とはいえ、事業の根幹である営業キャッシュフローはずっと大幅プラスで推移しているので、問題はないと思います。
大量仕入れの交渉で、ディスカウントの他に支払いの繰り延べもやっているはずです。以下の図で、商品を仕入れてから顧客に売れるまでのタイムラグがほとんどありません。
アマゾンほどではないものの、小売のリスクになるキャッシュ枯渇はほぼ押さえていると見て良さそうです。
コストコがウォルマートよりコンバージョンサイクルが良いのは、コストコのほうが商品を絞っているからです。より大量仕入れとなるので、バイイングパワーが大きくなります。
株主還元指標
近年は連続増配をしていますが、利益率は低いですしキャッシュに余裕がある感じでもなかったので、そこまでは期待出来ないかもしれません。
配当性向は3割以下ですが、総還元性向は年によってブレがあります。これは定期的に特別配当を実施しているためで、表面的な利回りより実際は高くなると思います。
直近配当利回り:0.77%
コストコ(COST)の株価、チャート分析
とりあえずリアルタイムチャートのリンク置いておきます。
過去の最高値、最安値
チャートもきれいな上昇トレンドを描いています。
かつては節目の150ドルや200ドルで少しヨコヨコの動きもありましたが、19年に抜けてからは急速に拡大していますね。
- 最高値:388.39ドル(2020年)
- 最安値(リーマンショック後):26.17ドル(2009年)
20年3月のコロナショックも影響は比較的小さくて、320ドルから280ドルへの下落で済んでいます。
むしろ20年11月からの反落のほうが振れ幅としては大きいです。
今後の値動き予測
5年チャート
300ドルのラインで少しもみ合いましたが、抜けたので今度サポートラインになっていますかね。上値は400ドルが次の目安になりそうなので、まだ固いかなと思います。
1年チャート
この1年は上がったり下がったり。あまりトレンドは出ていませんでした。
vs ウォルマート(WMT)
同じく小売業の大手ウォルマート(WMT)と比較したチャートがこちら。青がコストコ、赤がウォルマートです。
見ての通り、似通った動きにはなっていますがコストコがやや高いリターンとなっています。WMTはいよいよ配当王になるので、トータルリターンでは同じくらいかもしれませんが。
コストコ(COST)の投資戦略
まとめます。
- 会員制の小売店で、生鮮食品から日用品、家電に衣服まで、幅広い商品がほとんど卸値と同じ価格で販売されていることが特徴。
- ビジネスモデルとしては年会費を担保に非常に安価に提供しており、むしろ利益率のほとんどは年会費のみ(営業利益率は2~3%)。
- 価格の安さ、商品の質、消費者体験が強みとなっており、年度更新率は90%を超えている。
- チャートでも長期で上昇トレンドが継続。
回答
競争の激しい小売業界の中で、独特のビジネスモデルでワイドモートを築き上げた屈指の優良企業です。
ビジネスの構造上、利益率はどうしても低くなりがちですが、会員制は事業の継続性という意味で非常に強く、自分の中では高く評価しています。
アマゾンリスクによる小売市場への圧力があるものの、コストコは生き残りそうだなと感じていまして、投資リターンが期待と実益のギャップであると考えると、長期目線で利益を出す長期投資銘柄に向いているのではと感じている次第です。
フィリップ・モリス(PM)は、たばこ市場という縮小市場の4番手からトップに上がるギャップから過去50年で最大のリターンを叩き出しました。
ただでさえテンバガーの多い小売市場で台風の目となっているコストコにも、その可能性はあるのかもしれないなと思いました。
動画再掲。
関連記事です。
テンバガーの見分け方の解説記事。
アマゾンリスクの大きいビジネスを考察した記事。
コストコが提携しているマスターカード(MA)も超優良株の一つ。
これまで調査してきた米国株の個別銘柄記事リストをまとめました! 企業名クリックで各詳細記事に飛ぶことが出来ます。
企業名 (リンク先は分析記事) | ティッカー | 業種区分 | 主力事業、ブランド |
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ユナイテッド・ヘルス | UNH | ヘルスケア | 医療保険、PBM |
P&G | PG | 生活必需品 | ビューティー(パンテーン、SK-II)他 |
ユニリーバ | UL | 生活必需品 | パーソナルケア(Dove、LUX) |
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コカ・コーラ | KO | 生活必需品 | コカ・コーラ |
ペプシコ | PEP | 生活必需品 | ペプシ・コーラ |
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クラフト・ハインツ | KHC | 生活必需品 | チーズ、ケチャップ |
マコーミック | MKC | 生活必需品 | スパイス |
ホーメルフーズ | HRL | 生活必需品 | SPAM |
マクドナルド | MCD | 生活必需品 | マクドナルド |
スターバックス | SBUX | 生活必需品 | スターバックス(スタバ) |
ウォルマート・ストアーズ | WMT | 生活必需品 | 大型店舗小売 |
コストコ・ホールセール | COST | 生活必需品 | 会員制小売 |
ホーム・デポ | HD | 生活必需品 | DIY小売 |
フィリップ・モリス | PM | 生活必需品 | たばこ(マルボロ) |
アルトリア・グループ | MO | 生活必需品 | たばこ(マルボロ) |
レイノルズ・アメリカン | RAI/BTI | 生活必需品 | たばこ |
アンハイザー・ブッシュ・インベブ | BUD | 生活必需品 | バドワイザー |
ナイキ | NKE | 生活必需品 | スニーカー(ナイキ・エア) |
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エクソン・モービル | XOM | エネルギー | 石油メジャー |
シェブロン | CVX | エネルギー | 石油メジャー |
ロイヤル・ダッチ・シェル | RDS.B | エネルギー | 石油メジャー |
ボーイング | BA | 資本財 | B787ドリームライナー |
ロッキード・マーティン | LMT | 資本財 | ステルス戦闘機F-35 |
ユナイテッド・テクノロジーズ | UTX | 資本財 | 航空機エンジン、エレベーター |
キャタピラー | CAT | 資本財 | 建設機械(油圧ショベル他) |
ゼネラル・エレクトリック | GE | 資本財 | 照明、航空機エンジン |
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