昔に戻ったらどの株を買おうかな?――予測投資のタイムパラドックス

市況解説、投資小ネタ

60年前に戻ったらどの株を買うべきかと聞かれたら、あれこれ考えて、やっぱりフィリップ・モリスと答えるんじゃないかという記事。

シーゲル先生の調査でトップだったからというだけではなくて、そこそこ難しい内容です。

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知識を持って過去に戻れたら誰でも億万長者になれる?

例を取って考えましょう。

私達はシーゲル先生のおかげで、もし60年前に戻ったら何をすればいいか知っています。そう、フィリップ・モリス(PM)を買ってひたすら再投資していればいいんでしたね。

まだシーゲル先生の赤本を読んでいない人がいたら是非読んでみてください。

フィリップ・モリス(PM)の銘柄分析もよろしく。

【シーゲル銘柄】フィリップ・モリス(Philip Moris:PM)の銘柄分析

じゃあもしタイムリープして教科書通りに行動を起こせば大儲け出来るでしょうか。

いえいえ、よく考えましょう。他にタイムリープしてきたみんなもフィリップ・モリスの株を買うはずです。だってみんなフィリップ・モリスを買えばS&P500を遥かにアウトパフォームする年20%近いリターンが得られると知っているんですから。

人気化て出来高が増えてくるとさらに短期筋の資金が入り、あり得ない水準まで暴騰してしまいます。こうなると利回りも下がってしまいます。

未来に出版される「株式投資の未来」において、最大リターンを生み出した銘柄はIBMだった、という結論のパラレルワールドすら誕生するかもしれません。

……あ、ちなみに、意識だけ過去や未来に移動する場合を「タイムリープ」、身体ごと移動する場合を「タイムトラベル、タイムスリップ」と言います(英語のタイムリープにこの意味はないですが)。前者は同一時間軸に自分は1人だけ、後者は2人以上の自分が存在します。

市場は出し抜けないが人間もそんなに賢くない

さて、困りましたね。

自分以外の未来人がやって来ない世界に都合よくタイムリープ出来ればいいんですが(後述)、そうじゃなかったらどうしましょう。

フィリップ・モリス(PM)がどうして投資収益率ナンバーワンになったかというと、投資家の低い評価と実収益に大きなギャップがあったからです。

1957年当時のマルボロは、まだ数あるタバコの1つでしかありませんでした。タバコ業界は健康被害による訴訟リスクを常に抱え、食品業界への多角化を進めることでリスクヘッジを図ってきた歴史があります。当然これを重く見た投資家から低い評価を受けて

一方で規制に守られた産業構造によって、常に安定した利益を上げ続けてきました。設備投資もさほど要らないために、利益はほぼ全て株主に還元することが出来て、このギャップが高い投資収益率の源泉になっていたのです。

みんなが知ったらアノマリーは消える、だから必勝法は存在しないというのが相場です。

とりあえず株が上がることは確定だと思うのでS&P500を買うのも手ですが、当時はまだ指数連動インデックス投資なんてなかったんじゃないかな。

バンガードのガス・ソーター氏の最初のインデックス(VTI)って2001年からスタートしてますしね。

【VTI】バンガード・トータル・ストック・マーケットETFは超おすすめの米国ETF!

うーん、やっぱりフィリップ・モリスを買ってもいいんじゃないでしょうかね。これだけ理由をつけられますし。

  • たとえ株価が上がって投資収益率が落ちても、多額の利益と配当リターンは約束されている。そうすれば長期で十分なリターンが見込めるはず。
  • それに、未来を知っているならITや不動産に向かうと思われる。だってITバブルで上手く売り抜けられれば大金を手に入れられるから。地味な銘柄は過去に戻っても地味なまま。
  • でもバブル崩壊もブラックマンデーも同じ日に起こらないと思う。ブラックマンデーこそ再帰性の正のフィードバックが生んだバタフライエフェクト(後述)
  • ただ、もしかしたらちょっと目立ってなかった2番手のアボット・ラボラトリーズとかブリストル・マイヤーズ・スクイブ、もしくは20番のゼネラル・ミルズあたりがトップになるかもしれない(シーゲル先生のリストを丸暗記するのは難しいから)。それは仕方ない。

つまり、投資に予測は必要ないということ

これ、現在から未来においても同じ話が出来ると思ってます。

タイムトラベルものの小説は数多くありますが、その中でタイムパラドックスってありますよね。

過去の世界で何かを改変すると、今の世界が影響受けるというもので、有名なのは親殺しのパラドックスです。自分殺しでもいいんですけど。

例えば現在の自分が過去の自分を殺してしまったら、現在の自分は存在出来ない、そうすると過去の自分を殺す現在の自分はいないのだから、過去の自分は死なず、現在の自分も存在出来る。そうしたら――――というループです。

で、株を予測するというのは一種のタイムパラドックスになるんじゃないかと思うんですよ。

未来視は現在の行動を変える

予測なんだから違うだろと言われちゃいそうですね。でも精巧な未来予測はタイムリープと一緒だと思うんですよ。

例えば最近の天気予報ってものすごく当たりますよね。

だから明日は大雨が降ると言われたら屋外のサッカー練習は中々キツイものになるでしょう。屋内でFIFA17をやったほうがいいから(早くSwitchでFIFA18出してください)、さくっと予定変えちゃいますよね。

未来を知って過去(未来から見た過去=現在)の行動を変える、そうすると自分の行動で未来が変わってしまうという意味で同じではないでしょうか?

そして、株式市場において精巧な未来予測をやってやろうとしているのは、もちろん人工知能(AI)です。

AIでも予測できない株式市場

じゃあ未来にIBMの株価が上がると正確に予測されたとして、何をするかというとIBM株を今すぐ買いますよね。で、予測された最大ポイントで売ろうと目論むはず。

でもあなたの行動で株価の上昇がほんの少し急になったら、みんなが注目します。凄まじい買い注文が殺到し、あっという間に引いていきます。でもあなたが待っているのは最初に予測したポイント。

その時は既に予測された値動きと違うものになっているというのに。

こういう市場の特徴を再帰性と言っています。再帰性というのは、ある結果が原因を作り出し、結果を変えてしまうということです。予測に基づく行動が結果を歪め、未来を変えてしまうのです。

人間の営みが機械に置き換わっても話は一緒です。今度はAI同士での戦いがはじまります。人手を介さないだけで、お互いがお互いの出方を予測し合いながらポジション取り合う状況です。

あ、こういう言い方をするとゲーム理論を思い浮かべますね。

結局最適解が分かったとしても、お互いに動けないか、たどり着けないんですよ。自分が動くと最適解も動いてしまうから。

これがAIでも予測出来ないだろうと思っている根拠です。

もしこの話が覆るとしたら、AIがただひとつの勝者を決めてしまった時ですかね。自分の行動を織り込めば良いので。

ただ、少なくとも当面はAIが乱立するはずです。教師なし学習が出来るのがディープラーニングの特徴なので、人間がコントロール出来ず、異なる知能を持ったAIが複数生まれると思います。

余談

こっから先、似非インテリ向け小ネタ(笑)

べき乗則の世界

規模と頻度が反比例するという以上の規則がない世界をべき乗則と呼びます。大地震の頻度と回数、金持ちの分布、そして株式市場の値動きもこっちの世界にあります。

株の値動きは95%が無意味なランダムウォークで、残りの5%が株価の上下動の8割以上を占めています。後者は明らかにランダムではない動きを有しているようです。

べき乗則の反対にあるのが正規分布です。ベル状カーブとか言ったりして、皆さんお馴染みの世界です。身長体重の分布とかね。

正規分布的な分析ロジックや資金管理は、べき乗則の世界にある株式市場に通用しません。正確に言うと、べき乗則の95%には通用するけど、もっとも大切な5%の地殻変動に対応出来ないということです。

その5%をブラック・スワンと呼びます。

この話は何度か取り上げていますが、また今度記事にしましょうか。

バタフライエフェクト

複雑系は厨二用語の宝庫ですが、バタフライエフェクトは間違いなくそのひとつ。あとはカオス理論とかフラクタルとかも。

バタフライ=蝶の羽ばたきが時にハリケーンを引き起こすという意味で、僅かな力が後の大きな変化を生むという例に使われます。

ブラックマンデーはまさに市場のバタフライエフェクトです。1987年10月19日(月曜日)、何の前触れもなく、何のニュースもイベントもなく、突然22.6%も下落しました。

どこかの誰かが少しだけ売りを出した、それを見た他の誰かが釣られて売りを出した、またそれを見た他の大口が――――という負のフィードバックが働き、一方通行の値動きを後押ししたのです。

株価の動きは需給であって、なんとかを織り込んだからとか、材料出尽くしとかそういったことで上下するものではありません。

織り込み済みは魔法の言葉ではない

世界はいくつもある?

タイムパラドックスについて、因果はどこかで収束するという論理と、パラドックスの数だけ未来が分かれるという論理があります。最近は後者の方が多い印象です。

未来が複数並行して存在するということは、未来人が過去に来ない理由付けにもなります。私達が今いる世界とほんの少しだけズレたところにやって来ていて、両者が混じり合っていないのです。

これはシュレディンガーの猫と同じ、蓋を開けるまで確定しないという量子論の考え方だったと思います。

世界が複数あるということは、上手く行けばフィリップ・モリスが儲かることを知っている未来人が自分だけという世界にタイムリープ出来る可能性もゼロではないということです。

時間の概念

ただ、そもそも時間というのは人間が作った概念です。時間はそれ単体(絶対的)で存在し得ず、常に二点間を結ぶ前後関係(相対的)で表現されます。

ある一点を切り取り続けた世界に前後関係を繋げ、連続性を与えているのが時間ということですね。

極論、タイムスリップというのは世界の分子配列を全く同じものにすれば達成されるものです。

AIが未来予測出来るとすれば、世界の分子配列を全てビッグデータで把握して、将棋みたいにそれぞれの駒が次にどう動いてどう影響し合うのか、あらゆるパラメータを計算出来た時でしょう。

そう考えると怖いですよね(イーロン・マスクの忠告も分かりますねえ)。


この話のオチ? 私がフィリップ・モリスの株を持ってないことですけどw

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