ベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications:VZ)のファンダメンタル、チャート分析です。
前回AT&Tをやったので、その続きということで。米国通信事業者の1位と2位ということで、両株はよく似ていて、ベライゾンもやっぱり高配当銘柄です。
ちなみにVZはダウ30銘柄のひとつでもあります。
連続増配は15年と案外短いものですが、利回り4.4%超は魅力的。
動画も作ったよ。
目次(クリックで飛びます)
ベライゾン(VZ)の事業内容
ビジネスを3Cで分解してみましょう。
事業内訳
19年のアニュアルレポートを見てみると、基本的には横ばい成長という感じです。まあ売上1300億ドルもあるんですけどね。
事業内訳では以下の通り。
- コンシューマ事業:売上の7割近くを占める、一般ユーザ向けの回線契約などの通信事業。傘下にあるベライゾン・ワイヤレスは米国内に1.1億人もの契約者を抱える、米国最大の通信事業者です(13年に1300億ドルでボーダフォンから完全子会社化)。
- ビジネス事業:法人向けの契約、ソリューション売上です。全体の中で占める割合は25%くらい。2500万近いワイヤレス契約、50万近くのブロードバンド契約などがあります。
- コーポレート事業、その他:残り7%程度。メディア事業とそれによるデジタル広告収入はこちらに含まれます。
昔の記事を書いていた頃はワイヤレス(Wireless)事業とワイヤライン(Wireline)事業という分類でしたが、変わりましたね(下は参考)
この会社について重要なのは、AT&Tと同じく、成熟している通信事業から次の成長軸をどこに置くかという点です。
デジタル広告ビジネス
ベライゾンは少し前からデジタル広告への投資を強化していました。
15年にハフィントンポスト等の独自の広告自動配信網を持つAOLを買収(44億ドル)し、16年には米国Yahooのインターネット事業部門を買収(51億ドル)しました。
これによって、ベライゾンはデジタル広告においてGoogleとFacebookに次ぐ業界3位になりました(1、2位が圧倒的過ぎますけども)。
とりあえず、AOLとヤフーを傘下におさめたことで、広告・検索領域やポータルサイト、そして月3.6億人と言われる利用ユーザを手に入れることが出来ました。
ただ、思ったより伸び悩んでいる現状が最近の決算では浮き彫りになっています。
5G投資について
5Gは2021年におけるベライゾンの重点投資領域になります。
ベライゾンは18年10月に固定ブロードバンド、19年4月にモバイルで、世界でいち早く5Gサービスをスタートさせています。
IoT、コネクティッドデバイスの普及も進み、25年には500億台を超える見込みとなっています。これらとの接続を考えると、市場総額はさらに巨大なものになるでしょう。
総務省のデータを見ても、米国は世界でも5G拡大が最も進んでいる地域の一つですね。20年時点でも既にカバーされている地域が多数あります。
通信各社はスタートアップ投資を拡大させていますが、ベライゾンの5G領域のM&Aは最も多く、15年以降に24社を買収しています。
ベライゾンはデジタル広告やエッジコンピューティング、ビジュアルテクノロジーなどの領域に投資を広げているようです。
直近決算から
さらに20年4Q決算状況を見ておきましょう。コロナ影響などはどうだったのでしょうか?
コロナ影響で小売店が閉鎖されていたこともあり、2Qあたりまでは低迷していましたが、現在はほぼ横ばいを維持しています。
在宅勤務に向けた回線契約需要も高まり、高速インターネット接続サービス「Fios」が急成長するなどの好材料もありました。
冒頭にも「サービス収益の大幅な増加とキャッシュ創出」とあるように、復調が感じられる決算発表ですね。
2021年についても以下のような前向きなコメントをしています。
- 総サービス収益およびその他の収益の少なくとも2%の成長
- ワイヤレスサービスの総収益が少なくとも3%増加など
競合
AT&Tの再掲になりますが、競合としてはAT&T(T)、Tモバイル・スプリント連合ですね。
通信ケーブルや基地局といった設備投資が大きな業界なので、数多くのプレイヤーがひしめき合う構造にはなり得ません。これはドコモ、KDDI、ソフトバンクで寡占市場の日本でも同じですね。
基本的にベライゾン、AT&Tの2強で、ここ2社で過半数のシェアを握っています(余談ですが、ベライゾンも元はAT&Tの子会社が集まったもの)。
Tモバイルとスプリントは20年4月に合併して、3位を固めつつ2強のシェアを徐々に奪っていっています。
米国のキャリア競争は激しいらしく、横並びの施策は打たず、価格競争が非常に厳しい業界になっています。
過当競争で利益が削れ、近年のトラフィック量の増加に伴うコストを消費者に転嫁出来ない状況です。
このため、通信事業としては停滞感が強い各社は新しい方向性を模索しています。ビジネスモデルはそれぞれ特色が出てきています。
AT&Tの戦略
AT&Tは巨額の債務を持ってメディア事業へ進出&5G事業への拡大を進め、衛星放送首位のディレクTVやCATV2位のタイム・ワーナーを買収しています。
ビジネスモデルの軸にコンテンツ販売や広告収益をプロットしようという狙いですね。動画コンテンツは通信事業と親和性が高く、優良コンテンツは自社契約の囲い込みにもなります。
積極投資が目立つAT&Tと比べると、ベライゾンは主に5G領域を中心としたビジネス拡大で、やや慎重な投資になっているかなと思います。
後ほど見ますが、ここ数年の株価としてはベライゾンに軍配が上がっています。
デジタル広告ビジネスの壁は厚い
デジタル広告の領域では、Google、Facebookが圧倒的な地位を既に築き上げており、牙城を崩すことは容易ではないです。
17年のデータでは、Googleがシェア35%、Facebookがシェア13%と、2社で寡占市場を形成しています。ベライゾンはOtherの立ち位置です。
デジタル広告はリスティング広告とディスプレイ広告とがありますが、検索サービスとして世界で圧倒的なユーザ数を持つGoogleにリスティング広告は軍配が上がりますし、Facebookのディスプレイ広告はヒット率が高いことで有名です。
ベライゾンが買収したAOLと米国ヤフーの成長が今ひとつなのも気がかりですね。
市場
同じく再掲になりますが、市場は停滞しています。もうスマホ所持者は100%を超えており、ネットワーク普及率やエリアカバー率も90%超え、米国内に新しいパイはありません。
それでいて国内インフラ事業なので、他産業のように成長を海外に求めることも出来ません。
一方で、デジタル広告や5G市場については、見通しの明るいデータが数多くあります。
電通による世界の広告費成長率予測(2019~2021)では、広告市場全体で年平均3%程度の成長が見込まれています。
さらに媒体別で見ると圧倒的にWeb(デジタル)広告が優位にあることです。ほぼ一人勝ちと言っていいでしょう。
また、5Gについてはさらに大きな市場拡大が予測されていて、2030年には世界で168兆円規模になると言われています。
デバイス関連のニーズも大きいですが、将来の加入者26億人ともあるので、ベライゾンのような通信事業者も大きな恩恵を受けると思います。
5G発展の背景はこちらの記事もご参照ください。トラフィックの急増や高速低遅延な通信の需要が増えていっているということです。
リスク要素
現行キャリア市場の飽和
既に飽和気味のキャリア事業は、キャッシュを稼ぐという意味では非常に安定したビジネスに変わりありませんし、1.1億人以上の契約者を有するベライゾンが潰れることはないでしょう。
ただ、差別化がなくなり価格競争がさらに激化すると、利益を圧迫してキャッシュが枯渇し、次の事業へ投資が難しくなります。
通信事業の過去リターンは高くない
シーゲル先生の赤本によれば、通信事業セクターの過去平均リターンは9.63%と、市場平均10.85%を下回っています。
株価上昇が期待しにくい企業ですし、トータルリターンで市場平均より大幅なアウトパフォームは見込みにくいことは覚えておきたいです。
バフェットのバリュー投資
バフェット氏が2020年10~12月期にベライゾン株を購入したそうです。
参考<米国>ベライゾンが5%高 バフェット氏のバリュー株買い
リスクに置くのもあれですが、バフェット銘柄は良くも悪くもバークシャー・ハサウェイの動向に影響されやすくなります。
ベライゾン(VZ)の財務分析
PL
ほぼ横ばいの売上高と、微妙に上がったり下がったりの営業利益。
営業利益率20%超で安定しているのはインフラ企業の強さですが、加入者伸び率の鈍化、価格競争激化による収益圧迫が見て取れます。なお日本のKDDIあたりも同じくらいの利益率を誇ります。
AT&Tと同じく、多額の設備投資が圧迫し、ROAなどの効率性指標はあまり良くないですね。
AT&Tと比較すると、向こうは拡大路線によって売上は伸びていますが、その反面利益率は15%と低く出ています(株価を見る限り、ベライゾンのほうが評価されているようですね)
BS
現状維持のための設備投資が膨大で、固定資産が非常に大きいことが特徴。流動資産1割:固定資産9割くらい。
CF
さすがのインフラ事業でキャッシュは非常に安定しています。一方でやっぱり投資CF割合が大きく、営業CFの5割以上を吸い上げてしまいます。
その他の指標
15年連続増配銘柄と配当はいいペースで上がってきています。直近配当利回りも4.5%と高配当株として十分なリターンがあります。
また、配当性向を見るとここ数年は60%前後とまずまず余力もあります。
ベライゾン(VZ)の株価、チャート分析
とりあえずリアルタイムチャートリンク置いておきます。
ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)-Yahoo!ファイナンス
過去の最高値、最安値
過去20年くらいのチャートでは上限が60ドル、下限が25ドルとなっていて、やっぱりAT&Tみたく動きのないチャートです。
直近で言えばITバブル時期の最高値60ドル付近まで近づいており、壁になっている状態です。
ここまで50ドル、55ドル、60ドルと刻みながら上げてきているので、コロナショックでも50ドルを下回らない底の硬さを見せています。そういう意味で、直近安値は45ドルラインかなと。
ダウ銘柄なので、ダウの上下動にも影響されますし、高配当銘柄なので利回りも節目になります。
今後の値動き予測
5年チャート
わかりやすく60ドルが壁になっていて、特にここ2年は55ドル~60ドルの狭いレンジを往復しています。
売買判断としてはよいのですが、ダウ上昇の恩恵はあまり感じません。
1年チャート
コロナショックは左端ですが、全体的には軽微な影響で済んでいます。トレンドはなく、レンジ相場ですね。
AT&Tとの比較
青がベライゾン、赤がAT&Tです。特にここ3年はAT&Tよりベライゾンのほうが評価されていて、株価に結構な差が生まれています。
AT&Tはコンテンツ事業への進出に多額の投資をしていますが、どちらも成熟市場の高配当株ではあるので、配当性向のゆとりや将来の財務安全性の点でベライゾンが優位なのかなと思います。
ベライゾン(VZ)の投資戦略
まとめておきます。
- 通信事業は成熟しきった市場で、ベライゾンはデジタル広告や5G領域に投資を拡大させている
- 寡占市場かつ生活に欠かせないインフラということで、しばらくは安定と思われる
- 売上は横ばいも営業利益率は20%超をキープ
- 固定設備投資が大きく、CFを圧迫している(が、キャッシュ自体は十分余力ある)
- チャートはずっとレンジ相場で、60ドルの上限にちょうど差し掛かったところ
回答
AT&Tと同じく最近の株高に乗り切れないのには理由があるということで、利益水準は維持しているものの業界自体の飽和や過当競争が目立ちます。
ただし、なんだかんだ言っても社会インフラなので潰れはしないと思いますし、高配当株としてそこそこのリターンが期待出来る株ではあります。
どこもかしこも高値で投資先が見当たらない今日このごろ、長期でインカムが期待できる安定株としては、投資先の一つになる銘柄だと思いました。
関連記事
動画再掲。チャンネル登録もよろしくです。
AT&Tの記事も書いていますので、合わせて読んでいただけると嬉しいです。
日本の通信キャリア、KDDIの分析記事。同じく高配当&連続増配銘柄でもあります。
配当についてのデータをまとめています。意外と知らないことが多いかもしれません。
これまで調査してきた米国株の個別銘柄記事リストをまとめました! 企業名クリックで各詳細記事に飛ぶことが出来ます。
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