今回はアンハイザー・ブッシュ・インベブ(BUD)のファンダメンタル、チャート分析をやっていきたいと思います。2008年にベルギーのインベブが米アンハイザー・ブッシュを買収し、現在のながーい企業名に変えました。ということで、これもADR銘柄になります。
他のADR銘柄記事としてはユニリーバとロイヤル・ダッチ・シェルを見ています。
目次(クリックで飛びます)
アンハイザー・ブッシュ・インベブ(BUD)の事業内容
ビジネスを3Cで分解してみましょう。
事業内訳
ビールの世界トップシェアを走る企業です。16年に世界2位SABミラーを約13兆円で買収し、その勢いは留まるところを知りません。
ちなみに、SABミラーの主要株主はアルトリア・グループでしたね。あちらの銘柄分析をした際、プレゼン資料にしっかり登場していました。
話を戻して、アンハイザー・ブッシュ・インベブは多くの有名ブランドを保有しています。画像重くてすみませんが、ブランド名で「バドワイザー」ならば聞いたことあるのではないでしょうか。
500以上のブランドを有しており、そのうち7ブランドが世界トップ10ブランドに含まれています。おまけにビリオンダラー(10億ドル以上)ブランドが18もあるという驚きの事業ポートフォリオです。
特に強いブランドはバドワイザー、ステラ・アルトワ、コロナで、いずれも力強い成長を見せています。
世界の売上比率は以下の通りグローバルに散らばっています。しかしながら、個別に推移を見ていくと、北米とラテンアメリカで販売量・売上高とも減少傾向にあることが若干気がかりです。
特にシェアが高かった北ラテンアメリカが販売量-5.9%、売上-3.9%という結果でした。
アフリカに強いSABミラーを買収したことで、成長戦略を上手く補完出来るのではと期待しています。
今後の戦略
SABミラーを買収したことで、世界のトップシェアを完全に確保してしまいました。今後彼らが目指す方向は、より高い利益率が見込めるクラフトビール、ノンアルコールビールです。
前者について、あんまり正確な定義はないみたいですが、直訳すると手工芸品(Craft)のビールということで、高品質なものであることが特徴です。
下で見るように、ビール市場自体はわずかに減少傾向を示す一方で、クラフトビールのシェアは明確に増加傾向にあります。
ノンアルコールビールについては、ご存知のようにお酒ではないので酒税がかからない分、利益率が高くなります。2025年までに20%にしたいようです。
かつてのたばこ企業のように食品方面に進出して多角化する可能性は低いと思います。あの当時のたばこ事業は、特に米国で訴訟リスクを抱え続けていたために、リスクヘッジとしてたばこ事業のキャッシュを回していました。しかし、それも訴訟対応をほぼ終えた現在では本業へ回帰しています。
レポートでは「near beer」領域、つまりワインやリキュールへの進出も強化すると言っています。
アンハイザー・ブッシュ・インベブは今の時点でも反トラスト法対策でブランド売却を余儀なくされていますので、今後は小口の買収に留め、利益率の高い領域への注力がポイントになるのではないでしょうか。
ついでに言うと、M&Aが落ち着くということは投資家の元へお金が流れて来るのではないかとも考えられます。BUDはM&Aで成長してきたためグロース株というイメージも強いのですが、所属セクター的には利益還元で投資家に報いるほうが通常ですからね。
たばこ事業とビジネスモデルの違いは?
たばこ事業がビジネスモデルとしてとても優れていることは既に見ました。
まとめると、新規参入なし、競合はほぼない寡占市場、代替品も自社製品化、売り手側の圧力なし、買い手側はいくらでも支払うという完璧な市場でした。
アルコールもたばこと同じで依存性が高く、ブランド価値があって、企業統合が進んでいる今では寡占市場と言えなくもありません。昔からビールの醸造工程に変わりはないことから、技術革新もほとんどないと言っていいでしょう。
たばこ事業と比較すると、ビジネスモデル的には少しマイナスポイントが出てきます。
第一にアルコールはマーケティングが活発のため少数寡占市場にはなり得ず、新規参入で競争が生まれることです。これは同時に、各社で新製品を投入する必要が生まれ、当然開発・製造コストに返ってきます。バイヤー側が多少は選択可能のため、価格上昇は押さえられています(たばこと違って、ビール価格がどんどん上がっていくイメージはありません)。
逆にプラスポイントとしては、たばこより市場が大きいことや、一般への普及・理解はビールのほうが上だということです。
トータルで見ると、どちらもビジネス領域そのものに大きな魅力があることに違いはありません。
また、こちらのサイト様で大変参考になる情報がありまして、過去115年でアルコールとたばこはどちらも突出したパフォーマンスを出してきているようです。
競合
ビール市場は、大きく5つ(BUDとSABが連合になったので4つ)のグループが競い合っている状態です。この5グループで世界全体のビール生産量のうち50%を占めていると書いてありますね。
日本の最大手はキリンビールですが、トップ10でようやく出てきます。
最大手はもちろんアンハイザー・ブッシュ・インベブで、シェアは全体の30%を占めています。北米に至っては5割近いシェアを誇っています。元々世界トップと2位が一緒になったので、反トラスト法でいくつかのブランドを売却したとはいえ、独走状態です。
二番手グループは左上のハイネケンです。ここがビール世界3位で、バーに行ったらだいたい置いてありますので、聞いたことあるんじゃないでしょうか。
次がデンマークのカールスバーグです。5位は中国のCR Snowだそうですが、知りませんでした。中国シェア2割で、グローバルでは弱小なので……相当マニアな方でないと知らないのでは^^;
市場
市場としては以下のように、30年ぶりにビール消費量が減少しました。
世界最大の中国で2年連続減少、2位米国が横ばいというのは、先進国において市場成長がストップした証拠です。日本においても、最近は酒離れが叫ばれて久しいですしね。
逆にメキシコ、ベトナム、タイ、南アフリカといった発展途上国では大きく市場拡大しています(余談ですが、SABミラーはイギリス系ということもあってか、南アフリカでシェアが高いらしいです)。
お酒は手の届く奢侈品なので、可処分所得が増えるに従って、ある程度までは市場が拡大するはずです。娯楽も少なく、朝から晩まで汗水垂らして働いたら一杯やって、また明日から頑張ろうという昭和っぽいイメージでしょうか。一方で国として成熟してくると、可処分所得の使い道が多様化して、お酒の優先順位が落ちていくのではないでしょうか。
日本の例で言えば、酒離れの原因は、単にお金がないことと、他に楽しいことがあって飲み会如きに費やす時間がないことです。特に若い人ほどこの傾向が強いです。全くもってどうでもいい話ですが、今26歳の私も典型的な(会社の)飲み会嫌いですw
リスク要素
健康志向について
世界のビール売上高が初めて減少したというニュースもあるように、世界的には健康志向が社会トレンドになっています。まあお酒については元々の市場も大きく、減少幅もまだ小さいのですが、トレンドとしては離れる方向に向かうでしょう。
コカ・コーラ(KO)やマクドナルド(MCD)などでも書いた話ですが、こうしてパイが小さくなる場合、ブランド力によって消費者に減少分の負担を転嫁出来るかどうかが重要になります。その点、世界トップシェアのアンハイザー・ブッシュ・インベブは安全マージンが大きいと見ています。
健康リスク
ところで、アルコールって有名な麻薬より依存性が高いらしいですよ。
酒税も重要な財源ですし、禁酒させたら代わりの依存性物質を売買する闇市場が活発化してしまうということで、政府が規制をかけることはあり得ないわけですが。
暑い夏は追い風?
夏が暑いとビールが売れるってよく聞きますが、地球温暖化で年々平均気温が上がっていますし、ビールが飲みたくなるひと押しになるのではないでしょうかw
参考「ビール株は冬に買い、夏に売れ」 注目のサマーストック17選
逆に寒くなったら売上が落ちたりするんでしょうかね。
確定申告しないと損がでかい
米国株長期投資家あるあるの、二重課税の件です。
これまでに見たロイヤル・ダッチ・シェルとユニリーバはロンドン市場に上場しており、イギリスでは源泉徴収されないので良かったですが……アンハイザー・ブッシュ・インベブはベルギーの会社です。
はい、二重課税かかります。しかもベルギーは源泉徴収で30%近くかかるらしいので、確定申告は必須と言っていいでしょう。米国株長期投資家であれば避けて通れないので今更ですかね。
ちなみに、もっと今更ですが米国株の配当について日本で20.315%、米国で10%課税されます(キャピタルゲインは米国非課税)。租税条約があるので米国で課税された10%までは還付を受けることが可能ですが、還付%は所得次第なので満額返ってくるとは限りません(そういえば二重課税は記事にしていなかったですね)。
アンハイザー・ブッシュ・インベブ(BUD)の財務分析
PL
平均して30%を超えるこの圧倒的な利益率、たばこ株を思い出しますね。売上はほぼ横ばいですが、次年度はミラー買収効果で大幅増と思います。これまでもM&Aで巨大化して来た企業ですし、売上成長はお手の物でしょう。
利益率の陰に隠れてますが、ROEも15%程度はあります。あまり自社株買いが多くないっぽいので、かなり実態を示していると思います。
BS
安全性指標としてはそこそこ水準ですが、アルコールのような依存性のある嗜好品でトップシェアを握っているというのは、数字に出てこないブランド価値があるものです。
CF
たばこと違って同パッケージでも定期的に新製品を投入する必要があり、それなりに投資も大きくなります。BUDはM&Aも積極的ですしね。
ただ、それ以上に巨大で安定した営業キャッシュフローが見えているので、心配することは何もありません。
株主還元指標
利回りは高く、配当性向も年によりますが基本は50%以下なので、まだ余裕があります。連続増配は途中で切れてしまっていますが、高水準に変わりありません。
直近配当利回り:3.32%
アンハイザー・ブッシュ・インベブ(BUD)の株価、チャート分析
とりあえずリアルタイムチャートのリンク置いておきます。
アンハイザー・ブッシュ・インベブ(BUD)-Yahoo!ファイナンス
過去の最高値、最安値
- 最高値:136.08ドル(2016年)
- 最安値:49.08ドル(2010年)
あまり長い期間のチャートがありませんが、リーマンショック後ということもあって、ずっと上昇トレンドでした。
今後の値動き予測
5年チャート
ミラー買収で高値飛んだと思いきや、案外ヨコヨコでしたね。これ、当時のニュースを探しましたが、決算の問題ではなく投資家が買収に否定的な反応を示して下落したとのことです。
1年チャート
あれだけの利益率と世界シェアを持っているにしては、随分評価が低いように思います。他の株の上がりっぷりを見ているから感覚が麻痺している気もしますが、だとしてももっと上がってもおかしくないかと(PERだと167倍ですけどね!)。
アンハイザー・ブッシュ・インベブ(BUD)の投資戦略
まとめ。
- ビールの世界シェア3割を握る企業で、バドワイザーをはじめとしてビリオンダラーブランドを18、トップブランドを7も有している。
- アルコール事業は株価収益率も非常に高く、たばこビジネスと似て高収益・高投資家還元が期待出来る。過去10年の平均利益率は30%を超えている。
- ADR(ベルギー)のため二重課税を取り返すための確定申告はほぼ必須。
- 2010年以降トントン拍子で上がってきたが、ここ3年くらいは少しヨコヨコの動き。
回答
アルコールはたばこの親戚みたいなセクターで、どちらも高い収益率を歴史が約束してくれています。
市場成長率は鈍化傾向にあるものの、ビジネスモデルの安定性に加えてブランドの強さがあるアンハイザー・ブッシュ・インベブの立場が揺らぐことはないでしょう。ということで、私の中の評価は非常に高いです。
IRも非常に見やすく情報量いっぱいで、あまりの容量の大きさにGooglePDFで読み込めないくらいだったことだけが悲しい。
もし会社の飲み会が嫌いなら最初の会を絶対に欠席すべきです。一度行かないキャラで定着してしまえば、もう何も言われませんよw
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