前編から先に読んでください。
前編では電子書籍と出版業界の今を調べてみました。結果的に電子書籍は有望な市場と考えられるわけですが、実際に購入にあたっては今後のことも検討したいですよね。また、合わせて株の購入にあたって「割安性」、「株価の成長シナリオ」も検討してみたいと思います。
※個別銘柄の売買ルールはこちらに書いています。
目次(クリックで飛びます)
電子書籍関連銘柄の株価爆上げシナリオ
株価の成長シナリオは個別銘柄ごとに異なると思いますが、電子書籍全般として爆発力はどこから来るのか、考えてみました。
前提条件
電子書籍市場のプレイヤーは、結局のところ以下の「印刷/制作」「取次」「小売」が紙から電子に変わるだけです。
ぬかるんだ土の上では力強く飛ぶことはできませんので、まずは足場固めです。要するに入り口に来る人口を増やしていく条件ですね。
入り口を増やす方法=興味を持つ人を増やす+作品数を増やすとなります。
- 端末の普及(専用端末である必要なし):少し前まで最大の課題でしたが、昨今はスマホ、タブレットが凄まじい勢いで普及しているので、問題ないでしょう。誰でも読める環境になりました。ただAmazonの電子書籍ってKindleじゃなくても読めるんだよって知らない人が多いから、そこだけはなんとかしよう。
- 販売チャネル拡充:インフラも整ってきている印象です。もちろん最大手のAmazonを筆頭に力を入れている様子が伺えますね。スマホ、タブレットを媒介にした接触がメインです。
- 作品数の増加:Amazonの売上は所謂ロングテール市場と言われています。年間数冊しか売れないような作品でも、とにかくたくさんの作品を電子書籍で売る必要があるのです。個人出版はAmazonの仕組み上大変簡単に出来ますが、大物となる出版社が著作隣接権を持っていない課題は残っています。また、電子書籍が紙の書籍のパイを食べるだけでは成長は知れています。ターゲットを変えて、上手く市場そのものを拡大させる施策(価格設定、紙との住み分け)が必要になります。
16%の壁(イノベーター理論、キャズム理論)
前編で現在の電子書籍市場は全体の6%程度という状況を説明しました。
流行には以下の様な段階があると言われています。イノベーター理論です。
流行に敏感なイノベーター、アーリーアダプターが合計16%程度いて、まず彼らは新しいものを試そうとします。そして16%の評価が定まってきてから、ようやくアーリーマジョリティと呼ばれるボリューム層が行動を起こします。
この理論でいくと、来年、再来年あたりで一気にブレイクが来るかもしれません。
対して、ハイテク産業において初期市場と市場拡大期とでは大きな溝があるとした理論もあります(キャズム理論)。ただし、これは「みんなと違うものを所有したい」とするアーリーアダプターと、「みんなが持っているから自分もほしい」とするマジョリティとの違いから来ており、電子書籍市場には適さない考えと思います。
プレスリリース
新規参入系
Amazonの日本参入が一番大きな爆発シナリオだったので、あまり見込めないかもしれません。同系統のプレスリリースだと別業種から電子書籍市場に参入してくるとかでしょうか(その時期は既に過ぎたような気がしますが……)。
オリジナルコンテンツ(キラーコンテンツ)
以前にポケモン新作発表のプレスリリースで任天堂(7974)の株価がどうなるか検証してみた記事があります。
ポケモンほどの影響力はないかもしれませんが、ある有名人が「電子書籍だけ」本の発売をしたとかだと注目を集めるかもしれません。
※12年にハリーポッターが著者の直販で発売され、大きなニュースとなりました。
実学書、小説、漫画なんでもいいのですが電子書籍向けのオリジナルコンテンツは必須でしょうね。AmazonプライムのVODサービスでもオリジナルコンテンツで囲い込みを図ろうとしているようですし、似た戦略になるのではと思います。
普通に業績好調で上がっていく?
市場が拡大すれば利益も増えるでしょうというアイデア、これは会社ごとに違いが出そうです。後編でしっかり見ていきます。
その他今後の展開(勝手な予想)
まーた性懲りもなく「こうなったら人気出そう」みたいなアイデアを書き留めてみます。
- 音声読み上げ、動画、長い、短いなどの自由度を増したコンテンツ:紙との住み分けが進むと、相乗効果で市場が再拡大するのではないかと期待しています。
- 版権ビジネス:オリジナリティという意味で、独自のキャラクターコンテンツを持っている企画が出るといい気がします。ポケモンとかマリオとタイアップしたら一定数買う人いるでしょう。何よりの差別化要素になりますし、グローバルに売れるものというイメージに合致します。クールジャパン!
- 個人出版(ロングテールの源泉):オリジナリティ、著作権、そして夢。全部含めてこれが一番じゃないですかね。ぼちぼち個人で電子書籍に出版した億万長者も出てきましたし、著者が大量に参入すれば、無限の商品棚いっぱいに本が並ぶことになります。
電子書籍関連銘柄の成長モデル縮退抵抗検討
もちろん良いところばかりではなく、成長モデルの穴を探しておくべきです。それに対してどれだけ強い抵抗力を持っているか、という視点は損切りの判断を左右します。
Amazonの米国事例から
実は米国では成長率が鈍化しているらしいです。下のリンクは前回も上げたやつです。
とはいえ、これは一時的なものと思われます。
どうにもAmazonが自由に価格を決められなくなったことで、電子書籍のメリットである「安さ」が消えたのが原因のようです。
ただ……Amazonがやりたいのは商流の上から下まで全て賄うことです。言うなればAmazon経済圏。これが出来れば無数の個人作家がAmazonと契約し、値付けは全て彼らが自由に決めるようになります。
こちらの記事にあるように、日本でも中間マージンで利益を得ている取次を外そうと試みが本格化しているようです。そりゃ仕組みがあれば直取引のほうが安く出来るからね。
薄利の現業がAmazon側につくことで変わるかどうかですが、Amazon頼りも大きなリスクなので、複数ストアが競争しているほうが望ましいのでしょう。プレイヤーはどこに属するか慎重な検討が必要です。
ちなみに、「安さ」というのはあくまで紙と比較しての数字です。インターネット上にある無数の無料テキストと比較すれば「高い」買い物ですよね。以下に見るように、無料のコンテンツや娯楽産業との競争が増えている今、値付けは重要な問題です。
電子書籍の競合はSNS、ゲーム等の娯楽産業
要するに「スキマ時間の使い方」の一つとして電子書籍はあるんですよね。実際にスキマ時間に何をやっているかというアンケート結果が以下になります。
見てみると、SNSやネット、音楽、ゲームといった具合でしょうか。全てスマホで出来ることです。
紙の本とシェアの取り合いをするのではなく、新しい顧客層を取り込むことが重要だと思います(紙の本とは補完関係になることが理想ですね)。
逆にネットやゲームにシェアを奪われれば成長モデルに陰りが出るということになります。
無料(Free)との格闘
最近ではコンテンツは無料で提供されるもの、というイメージがますます強くなってきました。ニコニコ動画、小説家になろう、Pixiv……まあなんでも基本無料の時代ですよ(なんでこの3つなのか)。あ、このブログの文章も無料ですね。
電子書籍もその流れを汲んで、一巻だけ無料にして、二巻以降は有料みたいな形態もよく見かけます。
無料のビジネスモデルはいくつかあるのですが、いずれにせよ市場は大きくなっても利益が増えないことになります。
- 無料にしないと認知度が上がらない。
- 競合が無料だから対抗して無料にするしかない。
こうなると疲弊していきます。有料の中に一つだけ無料だった時代ならみんなこぞって群がって来ましたが、今は無料の中に無料という感じなので埋もれます。かといって有料にすると見向きもされず、困ったものです。
- 有料コンテンツとの差別化を明確にする。
- 電子書籍市場を飛び出て、利益を確保する。
とかとか考えることは出来ますが、結構頭の痛い問題だと思いますよ。
他業界の事例は参考になるか?
業界全体を語るなら、他の業界を見てみたいと思います。
CD業界
電子化の波を受けた業界代表と言えばここでしょうか。CD不況なんて表現が生易しいくらい壊滅状態で、今や年間アルバムトップでも百万枚行かなかったりします。
確かに、iTunesみたいな便利なインフラも整って、スマホに何十万曲も入れられる時代にいちいちCDを買うのはよっぽどのファンでしょう。
Wikiさんでは原因が3つ上げられていました。
- コンテンツ多様化で音楽への関心低下(上のゲーム、SNS、電子書籍に振り向けられた)
- レンタル、中古隆盛:価格10分の1以下なので。
- Youtube等の無料視聴:お金を払う意識が希薄化してきた気がしますね。
特に最後のYoutubeですね。まさに紙の書籍市場とよく似た動きをしている感じですが、おそろしいのは有料の音楽という市場そのものが減衰している点です。
音楽の場合は利益をCDからライブに移していると聞きますし、AKBなら握手券とか芸能方面への進出など、参考になる動きが見られます。本の場合はキャラクターの幅広いメディアミックス展開とかになるのでしょうか。
電子マネー
ちょっと変化球ですが、電子マネーも電子化ですよね。
日本でも電子マネーの普及率、使用率は年々上昇しています。大変便利なので、現金の代わりにみんな使います。
「ものを持ち歩かなくていい」という意味において、電子化はどの分野でも共通のメリットを持っています。現物がないと不安だという人もいますが、電子化が浸透するにつれてそういった抵抗感が薄くなっている気はしますね。
昔の常識も時間とともに変わっていきますので、これからもどんどん伸びていくでしょう。
なお、NFCと呼ばれる非接触ICカードを利用しますが、日本ではFelica、海外ではTypeA/Bという別タイプのNFC技術が使われているようです。世界標準はTypeA/Bなので、ついでに電子マネーを投資先として検討しようとした場合にはガラパゴス化に注意が必要です。
今回はここまでです。次で個々の企業を見てみたいと思います。
後編書きました。