色々と米国株も調べて、もう一度読んでみようと思って引っ張り出してきました。資産形成をする上で必読の本で、含蓄のある内容が詰まっています。個人的にメモをしている部分を備忘録として残します(雑に)。
緑色の表紙もありますが、下の赤い表紙の本(通称赤本)を読みましょう。
追記)動画を作りました。合わせてどうぞ!
10分版
2分版
目次(クリックで飛びます)
バイブルの結論
結論としては、永続的にキャッシュを生む企業の株を持ち続け、かつ配当は再投資することが最も大きな利益を生むとしています。
これは米国株を50年以上の期間に渡って調査した結果として出たものです。その効果は、代表的なインデックスS&P500の平均利回りを3%以上上回るものです。
配当再投資戦略
シーゲル投資の特徴は配当を最重視することにあります。自社株買いやストックオプションよりも圧倒的に配当重視です(自社株買いは不確実で、ストックオプションはEPS減少という効果しかもたらさない)。
その結論の元となった事実は以下の通り。
- 株の利益は債券、為替その他あらゆる商品と比較しても圧倒的に高い収益(平均6.5~7%/年)を誇る
- しかもインフレ調整後、30年以上のリスクは債券を下回る
- インフレ調整後ベースで、株のリターンの97%は配当再投資が生み出し、キャピタルゲインは3%しか生み出していない
- 1957年に当時のS&P500を購入して運用していたら、リターンはその後のS&P500を上回る
- 当初採用銘柄のうち、市場平均を上回る成果を上げた個別銘柄の内訳を見ると、そこに高成長の成長株、新興企業株は存在しない
- 成績に差をもたらしたのは増配で、配当の高い20社と低い20社の運用成績差は3%を超える
- 高配当銘柄は下落相場でプロテクター(高い利回りで積み増しし、配当によって損益点が切り下がる、株価回復時のリターンが早い)になり、上昇相場ではアクセル(下落相場に配当再投資で積み増ししたことが、上昇相場で実る)になる
- 上記については、米国市場特有のものではなく、世界16か国で同じ傾向が見られるデータがある
- 以上のことから、S&P500よりもさらに配当による利回りが高い個別銘柄を選別して永続保有し、配当再投資による「時に裏打ちされた勝利」を得られる投資を行うべき
バフェット投資との違い
バフェットは配当について税金がかかる分無駄であることを解いています。利益を配当に費やせば、本来企業が事業に投資して成長することから得られる収益を無駄にしているとも言えるでしょう。
この点についてシーゲル先生曰く、
- 配当しない=キャッシュを温存するということで、バフェットは必要時に自社株買いや投資出動が可能
- 「バフェットの投資戦略は健全なキャッシュフローを生む株式や事業に焦点を絞って」おり、これは配当再投資と同じ考え方の元で行っているに等しい
どのセクターに投資すべきか?
言ってしまえば、以下の3つです。
- 生活必需品:食品、飲料、日用品など。シーゲル先生はタバコをここに含めてますがいいんでしたっけ。コカ・コーラ、フィリップモリス、P&Gといった消費者認知度の高い企業が多い
- ヘルスケア:シェアを伸ばし続けてきた成長市場。しかし華々しい新興企業がもたらしたものではなく、J&J、メルク、ファイザーといった老舗企業が多い
- エネルギー:縮小市場で期待感薄だが、堅実な利益と高配当で魅力的な投資対象に。相関が低い点も良い。先述のスタンダードオイルの他、エクソンモービルや、米国外でBP(英)なども
その理屈の元となったデータは以下の通り。
セクター | 平均リターン(%) |
---|---|
ヘルスケア | 14.19 |
生活必需品 | 13.36 |
情報技術 | 11.39 |
エネルギー | 11.32 |
一般消費財 | 11.09 |
金融 | 10.58 |
資本財 | 10.22 |
電気通信 | 9.63 |
公共事業 | 9.52 |
素材 | 8.18 |
S&P500平均 | 10.85 |
運用成績上位企業
本当はちゃんと一つ一つの銘柄についてチャート出してコメント書きたいんですが、時間がなく。前にやったので記事検索から辿ってください。
1957年のS&P500当初採用銘柄のうち、投資した金額が2003年までにどれだけ大きくなったかという絞込です。S&P500がリターン10.85%であることを踏まえると、どれだけ驚異的な数字か分かると思います。
リンククリックで詳細な個別銘柄分析記事に飛びます。
会社名 | シンボル | 業種 | 主要事業 | リターン(%) |
---|---|---|---|---|
Philip Morris International Inc. | PM | 食品 | タバコ | 19.75 |
Abbott Laboratories | ABT | ヘルスケア | 薬品 | 16.51 |
Bristol-Myers Squibb Co | BMY | ヘルスケア | 薬品 | 16.36 |
Tootsie Roll | TR | 食品 | お菓子 | 16.11 |
Pfizer Inc. | PFE | ヘルスケア | 薬品 | 16.03 |
Coca-Cola Co. | KO | 食品 | コーラ | 16.02 |
Merck | MRK | ヘルスケア | 薬品 | 15.90 |
PepsiCo Inc. | PEP | 食品 | コーラ | 15.54 |
Colgate-Palmolive Company | CL | 生活必需品 | 日用品 | 15.22 |
Crane | CR | 資本財 | 工業 | 15.14 |
H.J. Heinz(Kraft Heinz) | KHC | 食品 | 食品 | 14.78 |
Wrigley(Mars) | -(非上場) | 食品 | お菓子 | 14.65 |
Fortune Brands | FBHS | 一般消費財 | 家具 | 14.65 |
Kroger | KR | 一般消費財 | 小売 | 14.41 |
Schering-Plough(Merck) | MRK | ヘルスケア | 薬品 | 14.36 |
Procter & Gamble Co. | PG | 生活必需品 | 日用品 | 14.26 |
Hershey Foods | HSY | 食品 | チョコレート | 14.22 |
Wyeth | AHP | ヘルスケア | 薬品 | 13.99 |
Royal Dutch Shell plc | RDSB | エネルギー | 石油 | 13.64 |
General Mills | GIS | 食品 | お菓子 | 13.58 |
金融やハイテク株=成長の罠
最新のS&P500では最も割合の多い金融、ハイテク株は、目覚ましい技術革新によって莫大な成長を遂げてきました。しかしながら、それは投資すべき株であることを意味しません。
事実、運用成績上位に一つも含まれておらず、金融及びIBMを除くハイテクはS&P500のリターンを下回ります。これは成長市場・新興企業全般に言えることです。
「地味」なセクターこそ宝が眠っている
3セクターはいずれも成熟市場であり、成長率は高くありません。PERは低く、連続増配しており、消費者に認知度の高いブランドを有して、世界的に展開している企業ばかりです。
なにせ運用成績一位がフィリップ・モリスというタバコの会社ですから。
リターンを決めるもの:バリュエーション
このブログでもいつも言っていることですが、安い価格で拾うことは何よりも重要です。
成長率ではなく、期待収益に対する実収益の差
上にもある通り、成長する株が高いリターンをもたらすわけではなく、期待収益と実収益の差が大きいほど高いリターンをもたらすのです。成長率の高い株は過大評価され、成長率の低い市場にある増収増益(キャッシュリッチ)企業は過小評価されます。
以下の二つの興味深い事例が出ています。
- IBMとスタンダードオイルの例:華やかなコンピュータ産業のIBMは、EPS成長率で50年以上に渡って3%以上、スタンダードオイルを上回っていた
- 中国とブラジルの例:中国の経済成長率はブラジルの経済成長率を常に上回っていた
にもかかわらず、投資収益においてはスタンダードオイルとブラジルに軍配が上がるのです。
要するに、IBMと中国に払った価格は高すぎた=実益よりも過大な収益を期待したということです。このことから、投資成績を決めるのはバリュエーションであり、いかに確実性の高い投資であるかを物語っています。
ポートフォリオのバランス
- リターン補完と国際投資と、二つの軸で配分して分散させるべき
- 配分は50:50くらいでよい
- 国際投資はインデックス投資が手軽で良い
- リターン補完としてはセクター、高配当、グローバル、バリュー等に分散する
- セクター分散は先述の3セクター中心に購入する
- 高配当はS&Pの上位10社、ダウの上位10社などから決める。REITも分散の観点から考慮に入れて良い
- グローバルに展開する企業の株を買う
- バリュエーションの適正な株を購入することと、生き残る企業に投資することが重要
その他
いくつか上でまとめにくかった部分。
- スピンオフ銘柄は保有してもよい
- 年金とストックオプションは利益の過大評価につながり、研究開発費は利益の過小評価につながる
- 自社株買いは配当ほど確かな決断ではない(EPSは上昇するが、中止になることも多い)
- ドルコスト平均法でもシーゲル先生の手法とほぼ同じ効果が得られるものの、その企業が生き残ることを条件にする必要がある
- エネルギーとITのバブルはよく似ており、それぞれセクターの占める時価総額の割合が全体の30%に達していた
シーゲル投資は今後も通用する投資法なのか?
本書の後半に結構なページ数を割いて記載がある通り、今後は成長率の鈍化及び新興国の伸長という社会変化とそれに伴うダイナミックな資本の移動があります。なぜなら人口動態という避けようのない未来がやって来るからです。
日本でも同じですが、ベビーブーマー世代が退職し、これまで彼らが運用していた株や債券を生活資金として取り崩す時、大幅な売りが発生し株価の下落要因になります。その引き取り先となる労働者層は購買力を有していません。
詳細は紙面に譲るとして、私の考えで言えば、今後も通用する投資であると思っています。マーケットは人の集団が形成しているものであり、その本質は過去から未来まで変わっていません。これまで様々な危機があり、それらを乗り越えてきた考え方ですから、今後についても同じく通用することが期待できるでしょう。
……ま、通用しなくなる場合はいくつかあり、例えばシーゲル投資があまりに有名になるとこれまで割安だったセクターは割高になってしまってアウトですね。あるいは持続的発展の根本が崩れて資本主義が終焉を迎えるとアウトですが(私は途上国の発展で成長を賄うのは不可能と考えていますので)、その時にはお金の要らない新経済に移ってますよ、きっと。
ということで、資産運用を考えるなら必読本です。私のメモ書きではとても伝えきれない重要な情報がたくさんあります。