固定相場制から変動相場制に変わった歴史については、先に下の記事をご参照ください。
今回は当時将来有望な投資先と見られてきた中南米地域が1980年代に次々デフォルトした経緯を見ていきたいと思います。
タイトルの通り、これだけの新興国が1980年代にデフォルトを起こしています。歴史を省みても南米のデフォルト回数は際立って多いようです。
- 1980年:スリランカ、ボリビア、ペルー
- 1981年:ポーランド、ルーマニア、中央アフリカ
- 1982年:メキシコ、アルゼンチン、エクアドル、ナイジェリア、トルコ
- 1983年:ブラジル、チリ、パナマ、フィリピン、モロッコ、ザンビア、ウルグアイ、ベネズエラ、コートジボワール
- 1984年:エジプト
- 1985年:アンゴラ、南アフリカ
1997年にはアジア通貨危機、1998年にはロシア、2001年にはアルゼンチンのデフォルトもありました。こちらは別記事にしますが、こうした新興国投資についてのリスクを歴史から学んでおきたいものです。
目次(クリックで飛びます)
デフォルトするとはどういうことか
デフォルトとは債務不履行という意味で、債券の発行者が利払いや元本支払いを停止することを言います。債務=借金くらいに思っておけばOKです。
債券というのは一定の利子を支払うこと、満期になったら元本を返すことを約束する代わりにお金を借りる仕組みです。
デフォルトとはその借金が返せないということですから、当然信用を失います。社債であれば会社の信用、国債であれば国の信用が失墜するのです。
デフォルト後の混乱
国の信用がないということは、誰もそこに投資をしなくなりますから、一斉に資金が引き上げられて通貨安になります。
経済の悪化&通貨安が輸入価格を高騰させるため、強烈なインフレ(スタグフレーション)が進行します。最悪の形ですね。
しばらくは苦しみますが、IMFの救済(公的資金注入+計画経済)、通貨安によって輸出競争力が増すことで徐々に国内産業が復活し、徐々に正常に戻っていくものです。
ちなみに、デフォルト宣言しても債務がなくなるわけではなく、返済期限を延期して経済が落ち着いてから返すほうが一般的です(リプロファイル)。いざとなったら借金を棒引きする国だと思われたら、誰もお金を貸してくれなくなりますから。
デフォルトの条件
デフォルトの議論で常に重要なのは「誰が借りているのか」という点です。
具体的には、外国債務であるとデフォルトの危険度は跳ね上がります。なぜか。
日本でもデフォルト論は常にくすぶっていますが、日本国債はほぼ100%円建ての債券です。
そして、国には通貨発行権があるので、最悪円を刷って返せば債務不履行にはなりません。もちろん市中に金があふれるので、インフレが進むという問題はありますが。
一方で外国に対する債務はそうはいきません。
ドル建てで資金を集めた場合、ドルで返済しないといけませんよね。じゃあブラジルやメキシコが勝手にドルを刷って返せるかというと、そんなわけがありません。ドルの発行権はあくまでアメリカにあるのですから。
あるいはユーロのように共通通貨をもつ共同体も各国に通貨発行権がないので、通貨を刷って返すという選択が取れません。
つまり外国への返済は地道に国内でお金を稼いで返すしかなく、それが何らかの事情で難しくなった場合にデフォルトが宣言されるわけです。
中南米のデフォルト問題
この前提の元で、中南米のデフォルト問題を見ておきましょう。
金融不安の発端は1982年にメキシコがデフォルトしたことからはじまりましたが、よりインパクトが大きかったのはブラジルのデフォルト宣言です。
南米の王国ブラジルのデフォルトという衝撃
1980年以前のデータに乏しいのですが、1968年~1973年まで脅威の2桁成長を続けたことから、先進国の投資対象として最も注目を集めていた国です。
しかし、成長の原動力となったのは輸出競争力ではなく、あくまでも国内消費の増加による成長モデルでした。特に耐久消費財と言われる家電・車の消費ですね。
人口増と可処分所得増の恩恵はありましたが、それ以上にブラジル政府が信用供与を行って支えたことで堅調な伸びを見せました。
これをストップさせたのが2度のオイルショックです。前回記事でも見ましたが、先進国でも軒並み経済の悪化と激しいインフレに見舞われ、それは新興国も例外ではありません。
元から耐久消費財の輸入によって対外債務が拡大していたところに石油の輸入も増加し、ブラジルの貿易赤字はますます拡大。つまり対外債務が拡大したということになります。
ここに加えて米国で金融引締めがありました。1980年代は高インフレに悩まされていた米国では、金利をどんどん上げていきました。ポール・ボルカーFRB議長の時代です。
以前利上げについての記事で触れているので、詳しくはそちらで。
米国からすれば自国のインフレ退治が最優先なので他国の都合など構ってられない状態だったのですが、ブラジルにとっては致命的でした。なにせただでさえ膨らんでいたドルの対外債務に対する利払いが、ここにきて一段と増えることを意味するからです。
結局、ブラジルは1983年にデフォルト宣言するのですが、ご覧の通り直前にはマイナス成長に転落しています。
そうそう、1990年にもデフォルトするんですよこの国は。
経済構造的に不可避のデフォルト
この経緯を見て分かるのは、経済構造上の問題だったということです。実際、1982年のメキシコでも同様の自体が発生していました。
メキシコがヤバイということは、同じ経済構造の他国も危ないのでは……という不安が的中し、アルゼンチン、ブラジルといった中南米の中でも大きな経済国にも波及したというほうが正しいでしょうか。
要するに以下の3点セットが引き起こした問題と言えるでしょう。
- 内需型の経済→輸入増加で対外債務増加
- 石油価格上昇による輸入増加&インフレ→貿易赤字拡大&経済成長が減速
- アメリカの金利高政策によって支払い金利増加→債務不履行へ
この背景には溢れたオイルマネーが米銀行へ向かい、高い利回りを求めたということもあります。有望な投資先を探す必要が生じたため、景気減速にもかかわらずブラジルやアルゼンチンへの投資をむしろ増やしていったのです。
このままでは何度でも再発すると考えたIMFが、経済成長による債務解消を採択したというのも頷けますね。
同時に思うのは、グローバルな金融の動きを追う必要性が高まったということ。元々資本主義経済が中心と周辺を作る経済システムなのですから、中心たる米国の金融政策は周辺たる世界各国に大きな影響を与える構図なのです。
そしてこれは今も形を変えて登場している問題です。例えば南米のベネズエラでは、中国マネーによる巨額融資を受け入れる代わりに返済を石油で行うという契約を結びました。しかし昨今の原油価格下落によって返済が追いつかず、デフォルトが目前まで迫っているのです。
今も経済破綻とハイパーインフレという問題を抱え、政治的混乱が続いています。注意が必要ですね。
支払停止宣言に対して債権者は処置なく
デフォルト後に1000%超のハイパーインフレに陥ったブラジルでは、仕方なくモラトリアム宣言がされます。支払猶予を延ばすと勝手に言い放ったわけです。
その宣言に対して債権者たる先進国は何も出来ませんでした。しかも最終的には金利や元本の一部削減という債務放棄を選択することになりました。
ちなみに今でもブラジルは高インフレに悩まされています。少し古いですが、新興国の中でもファンダメンタルズ的には中国が優等生だということが分かる表ですね。
デフォルトした国の債券価値や株価値動き
ということで、国への投資においてもリスクはゼロではないと分かったのではないでしょうか。
投資に対するリスクは正しい認識を持っておくことが大切です。
ブラジルのデータがあれば良かったのですが、1980年代の株価やブラジルレアルの推移が見つからず、ロシアとアルゼンチンのデフォルトについて見ておきます。
ロシア、アルゼンチン
過去記事の再掲です。
ロシア(1998年デフォルト)の株価チャート
アルゼンチン(2001年デフォルト)の株価チャート
国家財務が壊れても債券価値、株式価値、通貨価値がゼロになるわけではありません。しかしながらいずれも数分の1に暴落するということで、資産の大半を毀損する可能性が高くなります。
まあ株価はその後戻ってますけど、通貨安は止まっていないので円換算での収益は微妙なところだと思います。
こうなったら早めに逃げるか、そもそも投資をしないほうがいいですね。遅れると売り一色で逃げようにも逃げられない状況になるかもしれません。