決算を読む上で必須の会計知識ですが、日本の決算に慣れた後で米国株へ投資しようとすると、色々と勝手が違うところがあります。
会計基準はGAAPとIFRSでも微妙に異なっており、把握するためにいくつかポイントがあります。今回はそれをまとめたいと思います。
私は簿記2級まで持っていますが、あれはやはり会計を「作る」ための知識です。会計を「読む」という知識はまた別のところにあるのだと痛感しますね。
大枠の考え方と、投資に関係しそうな部分を中心にまとめています。株価が高い時は暇になるので、勉強して過ごすと有意義ですね。
目次(クリックで飛びます)
会計基準
大別すると以下の2種類あります。
- GAAP:Generally Accepted Accounting Principlesの略で、会計基準という意味です。ギャープと読みます。例えばJGAAPが日本、USGAAPが米国会計基準という意味になります。
- IFRS:国際会計基準のことで、イファースと読むのが正式らしいです。アイファースでもたぶんおk。会計という言語をグローバルで統一しようという動きの中で採択されているもので、透明性の高い財務諸表が提示出来るメリットがあります。
そして、JGAAP ≒ USGAAP ≠ IFRSです。日本の会計基準はずっと米国のものを参考に作ってきたものですので、わりとよく似ています。
一方でIFRSは日米会計基準とは異質です。いくつかの考え方が異なることに由来します。
原則主義
IFRSは財務書類の原理原則を規定するのみで、具体的な基準が定められていません。そういった基準については企業ごとの判断に任せており、原則の中である程度自由に扱えます(代わりにIRで合理的な説明の開示が必要です)。
一方でJGAAPやUSGAAPはルールベースと言われる細則主義で、細かく具体的な規定基準が設けられています。
包括利益重視
USGAAP的に言うと、包括利益=当期純利益+その他の包括利益です。分けて表記するか、まとめているかという違いがあります。
バランスシート重視
IFRSはバランスシート重視と言われています。資産と負債における評価を中心に考えているわけです。利益というのは2時点間のバランスシートでの変更内容から導き出すという考え方です(当期利益もその中に含まれている)。
一方GAAPは基本的に損益計算書(P/L)重視。企業活動としての利益(一定期間の利益)が経営の中心にあって、P/Lの純利益がバランスシートの純資産に計上されるという考え方です。
時価重視
上に関連して、IFRSでは時価での評価を重視しています。資産価値は時価評価で絶えず変動しているという考え方で、包括利益に含まれています。
一方GAAPは取得価格を重視しています。取得価格は変えず、減価償却によって価値が減じていることを表記します(大きな変化があった場合は表記が必要です)。
主な違い
さて、これらのポイントを踏まえて、投資において具体的な注意点を確認しましょう。
営業利益、経常利益
JGAAPとそれ以外の会計で最も異なるのが利益表記です。なにせUSGAAPにもIFRSにも経常利益というものがありません。
経常利益とは何かというと、
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用
で、この営業外損益というのは利息収入や有価証券の売却益、不動産収入といった事業外の収益になります。
経常利益がないUSGAAPやIFRSでは、これらの損益を他の項目に割り振っているということになります。具体的には、「事業に直接関係するもの」だけを営業損益に計上しています。
ここだけ見るとJGAAPの営業利益 > USGAAP/IFRSの営業利益ということになります。「え?」って感じですが、次ののれんで逆転するのでちょっとまってね。
日本における営業利益は本業での特別損失が含まれず、経常利益は本業外の収入が含まれていたりで、どちらも本業の収益力を評価するという意味では少し向いていない指標です。
海外では収益力の源泉を財務諸表上で明らかにすることで、企業の真の実力を可視化しやすくなっていると言えるでしょう。
注意点をまとめておきます。
- IFRSやUSGAAPの営業利益は、JGAAPより低くなる傾向
- JGAAPの営業利益や経常利益は、本業の実力を見る上でどちらも一長一短
- 逆にUSGAAPやIFRSは本業の実力は見えやすいものの、一時的な利益や損失の一部が営業損益に反映されるため、毎期の変動が大きくなりやすい(変動理由を確認する必要がある)
減価償却
日本の会計では定額法や定率法によって、簿価の一定額が減価償却として費用計上されていきます。
一方でIFRSは実態に合わせた時価会計主義ということで、資産が生み出す将来の経済的便益を企業がどのように消費していくか、という見込みに基づいて決定されます。
分かりにくいですね。
要するにどういった計算で償却するか、自分たちで合理的な方法を説明すればOKなのです。減価償却方法は毎期見直しが必要になります。
逆にバランスシートの計上される残存価格というのは、耐用年数が来た時にその資産から得られる価値を表示したものになります。
この辺りは米国株投資をされている会計士さんのブログが大変参考になりますので、勝手ながらリンクさせていただきます。詳しくはこちらを見ていただいた方が理解が早いかと思います。
参考【のれん】日本株と米国株を比較するときはより一層キャッシュに注目すべきだ
のれん償却
機械なんかは結局耐用年数や稼働見込みが投資時から計画されているので、JGAAP会計とさほど大きな差はありません。
問題はM&Aにおける「のれん」の扱いです。
のれん (goodwill)とは、企業の買収・合併(M&A)の際に発生する、「買収された企業の時価評価純資産」と「買収価額」との差額のことである。
出典:Wikipedia
のれんは英語でGoodwill、これも覚えておいたほうがいいですよ。
で、単純に言うと、日本会計ではのれんを償却し、米国会計やIFRSではのれん償却をしません。償却しないということはP/Lの費用計上されないということですから、利益が嵩増しされるわけです。
だからここまで差がつくんでしょうか?↓
日本会計では最大20年で定率法を用いて減価償却します。減損については定期的なテストは不要で、減損兆候がある場合のみ実施する規定です。P/L上の表記は特別損失です。
IFRSでは減価償却はしませんが、最低でも年1回は減損テストを実施し、減損があった場合は営業費用として計上します(IFRSには特別損失という項目がないため)。
しかも、過去の減損が減少したことが認められたとしても、のれんは戻入れ=元に戻すことが出来ません。
減損の評価方法まで知っておく必要はなさそうですが、念のため資料お借りします。
重要なのは下記2点。
- USGAAP、IFRSではのれんを償却しないため、減損の影響が大きくなる。
- IFRSにおいては、M&Aで取得した「のれん」について毎年再評価されるため、決算更新のタイミングで都度減損による財務諸表悪化のリスクを伴う(高すぎる買い物に注意)。
保有資産(有価証券等)の評価
上に書いたことの繰り返しになります。
IFRSはバランスシート重視です。保有している資産の時価評価が下がったとして、その差分を特別損失として計上することは出来ない=P/Lには出て来ないということになります。
その他
他にも結構色々と違いがあります。その辺も知りたいという方は、以下で比較がされていますので、合わせてどうぞ。
参考JGAAP-IFRS-USGAAP comparison
- 研究開発費が一部資産計上されるIFRS、全て費用計上される日米GAAP
- 会計変更をした場合に財務諸表を遡って作り直す米国、IFRSと、作り直さなくていい日本とか
キャッシュフローは変わらない
もう一つ大切なこととして、キャッシュフローは変わりません。なぜならこれは現金の動きについて実態を示したものなので、会計基準が変わったからと言って変わりようがないのです。
キャッシュフローを見ろ、とはよく言ったものです。特にリスク評価をするのであれば、ですね。
IFRS採用企業割合
余談ですが、日本、米国でIFRSはどのくらい採用されているのでしょうか。
16年7月時点のデータで、日本では121社が採用しているようです。
日本の上場企業は現時点で3,560社(東証一部、二部など全て含め)あるため、割合で言えばわずかに3.3%です。ただ、以下の図にもあるように、時価総額では21.5%を占めています。
つまり、(世界からお金を集める必要がある)大企業ほどIFRSを採用しグローバル対応していると推測出来ますね。
米国に至ってはそもそもIFRSを採用していません。下の図で見る通り、日本と米国のIFRS適用は五十歩百歩で相当遅い方です。
大半の国では赤色の「強制適用」地域であるのに対して、日本は黄色の任意適用地域、米国は青色の自国会計基準の適用地域です。
ただ、会計というのは経営の言語ですから、グローバルで統一させた方が投資家にとっても利便性が高いことは間違いありません。
特にNYSEは世界中から投資資金を集めようとしている巨大企業の集まりですので、これからIFRS採用が増えていくのではとも思います。どうでしょうか。
決算書を読む際には、まずどの会計基準を使っているのか、確認してから読み込みましょう。
早いもので、今年も半分終わってしまいましたね……(´・ω・`)