2007年頃は株式市場に数学を持ち込んだクオンツアナリストが活躍していましたが、それも今やシステム=AIに置き換えられているようです。
人間、お金が絡むと目の色変わりますね。技術発展のエンジンはお金、性、健康でしたっけ。
もしかするとAIの次なるブレイクスルーを起こすのは、FANGのようなデジタル企業ではなく、ヘッジファンドかもしれませんよ。
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市場の歪みが直ちに正される
システムはアービトラージ取引(裁定取引)が得意です。
一番単純な例で言えば、取引所間などで価格差があるときに、「安い方で買って高い方で売れば」確実に利益が出ます。
それ自体はごく薄い利益ですが、資金量があればとんでもない利益になります。
究極のアービトラージ
いきなり余談ですが、このやり方の究極をやったファンドがあります。
ロングターム・キャピタルマネジメント、略称LTCM(Long Term Capital Management)という、ノーベル経済学賞受賞者や元FRB副議長などを集めたドリームチームでした。
彼らは60倍近いレバレッジをかけて資金量を水増しし、最後はアジア通貨危機及びロシア危機という、確率的にありえない事象=ブラック・スワンが登場したことによって破綻しました。
AI時代の市場価格形成
システムの計算速度がどんどん上がっているため、企業の適正価格は以前より正確に弾き出せるようになっていくはずです。
フィルタリングやスコアリングの分野で、人間はシステムに敵いません。一時的な取引需給で過大(過小)評価された株は即時に適正レートに戻されるような気がしますね。
つまり、これまでよりも割安放置される株が少なくなるのは間違いないかと。
言い換えると、「あらゆるベータが消失する」ということになります。
あるいは、画像分析を使ったチャートのスクリーニングも得意ですね。
過去のあらゆるパターンを探し出し、そのパターンと相関性が高いほど同じ結果になる確率が上がります。
なぜならチャートは投資家の心理を示したもので、人間の心はそうそう変わらないからです。
投資家心理についてはプロスペクト理論を勉強しましょう。以下の記事でも取り扱っています。
こうした価格形成の偏りを活かした投資法は、AIによって優位性が消える可能性が高そうです。
AIに予測は出来ないと思う
私はAIが株価を予測することは不可能だと考えています。これまでも度々記事にしましたが、今も考えは変わっていません。
理屈としては大きく3つかなと思っています。
- 全能ではない:今この瞬間、世界の全ての情報を把握出来れば、次の1秒も把握出来るかと言われれば難しい。そもそも前提自体が現実的ではないでしょう。
- 再帰性:株価を予測したことで行動が変わり、それによって他社の行動も変わる=未来が変わってしまうということ。
- 世界一優秀なシステムはどこか:これまでも株価、為替のチャートを動かしていたのは大口ディーラーでした。今後はディーラーがシステムに置き換わっただけではないかなと。
ついでに、株式市場はべき乗則が働いています。
株の値動きは95%が無意味なランダムウォークで、残りの5%が株価の上下動の8割以上を占めています。後者は明らかにランダムではない動きを有しているようです。
ということで、要はAIは短期的な価格の是正は出来ても、長期的な予測は難しいんじゃないかというのが私の考えです。
やっぱりストーリーなのでは
私の個別株投資(テーマ株)は、沸騰するより数年~数ヶ月前に仕込んで、人気が出たら手仕舞うものです。
重視しているのは成長のストーリー。
直感で投資するなどと言うつもりは毛頭ないですが、将来ビジョンの「行ける感」というか、言語化、数値化しにくい部分で投資を決めています。
AIは意味を理解できない
AIについてダメ押しすると、最近読んだ本でおすすめの一冊を紹介します。有名な本ですが、お恥ずかしながら最近やっと手に取りました。
この本によると、AIは意味を理解出来ないのだそうです。なぜならAIはあくまで計算機であって、計算機は数学で記述するものだから。
そして数学が言葉を記述する方法は人類史上わずか3通りしか発見されていません。
- 論理
- 確率
- 統計
このいずれを使っても、言葉の意味を記述することが出来ない。
だから計算機の延長線上にAIが人間を完全に代替出来ないのでは、という論旨です。
とても興味深い内容なので、AI万能説を考えている人ほど一読をおすすめします。
意味が理解できない弊害
先程も書いたように、AIはスクリーニングが得意です。
以前にテンバガーの条件という記事を書きましたが、これに引っかかる企業をリストアップするなんて秒で終わります。
さらに10、20のシグナルをかけ合わせて、精度を上げていくことが出来るでしょう。
ただ、これがなぜ上手くいくのかは説明できない、ということです。
短期的な上げ下げではなく、将来像を見ること
私は上がったこと下がったことに理由をつけようとすることには反対です。
株式市場は無数の事象が互いに関連しあって、最終的に需給によって価格形成しているので、「〇〇というニュースが出て上がった、下がった」という後付け解説に意味がないからです。
しかし、本来投資というのは一時の価格変動に賭けるものではありません。
自社の強み、市場や競合、そして長期的な経営ビジョンに共感して、この会社ならと思うところに大切な資産を投じるものです。
これは計算機に代替出来ない分野ではないでしょうか。
企業の将来性と株価成長のストーリーを考える、というのが私の考えるAI時代の個別株投資かなあと思っています。
ブログの将来
ちなみにブログでも同じことが言えると思います。
とにかく取れるデータが膨大かつ複雑化していますが、着目するのはとにかくユーザーのニーズを満たせる記事かどうか。
多少の言葉のゆらぎは類語辞書で吸収出来るため、検索キーワードを重視したSEOよりも、ユーザーニーズを満たす内容かどうかが検索順位に大きく影響していくと思います。
もちろん、コピペや修飾語で引き伸ばしただけの、ユーザーにとって無価値なブログはどんどん淘汰されるでしょう。
私も淘汰されないように頑張りたいです(^^)/
検索表示は変わらないのかも
先日デジタル時代の消費者行動について考えを書きました(タイトルはクラフト・ハインツですが、途中から全く違うこと書いてます……笑)
究極の検索機能というのは、質問に対して完璧な解答を出せるたった一つのリンク(情報そのもの)を導くことです。
AIが意味を理解出来ないということは、人の行動の結果から確度を出すことしか出来ません。
例えば、「ソフトバンク 株」という検索をしたとしましょう。
当ブログのソフトバンク株分析記事は検索順位で遥か下にありますが、ここに多くの人が長時間滞在し、それでブラウザを閉じていたら、私のソフトバンク記事にはきっと答えが書いてあると予測がつくわけです。
Web上の行動というのは、みなさんが思っている以上に大量のデータが取られています。
マウスポインタの動きから、ユーザの視線がどこを見ているかヒートマップで出したりとか(もうそんなにすごい話じゃないかw)
するとGoogleは当ブログの順位を上げて、検索で上位表示させます。
ここで究極の検索機能があったとしたら、毎回当ブログの記事だけ出れば事足りるようになりますよね。
しかし、検索者の意図が「ソフトバンクの今日の株価」なのか、「ソフトバンクは投資先としてどうか」なのか、全く分かりません。
Webの行動を監視しているなら前後の文脈を含めて最適なリンクを表示させられるように思えますが、AIが言葉の意味を理解できないということは、こうしたニーズを汲み取れないことになります。
QAを1:1で対応させることが出来ないなら、検索結果は可能性の高いものから複数リストアップしていく今の方式しかないのかなと思いました。