エベレストの頂上からマリアナ海溝の底まで、北極から南極まで、すべて開拓された21世紀において、未だ人にとって未知のフロンティアである宇宙。
今回は、そんな夢とロマンが残る宇宙ビジネスについての考察記事&関連銘柄探しになります。いつものごとく、前編では宇宙ビジネスの概要を見て、後編では銘柄を具体的に探してみます。
目次(クリックで飛びます)
宇宙ビジネス(宇宙産業)の現状、動向について
元々の宇宙開発は、冷戦時代に象徴されるように軍事目的が中心でした。ところが最近では民需も伸びてきて、本格的な成長期に移ろうとしています。
宇宙ビジネス分類
宇宙ビジネスの種類は大きく分けて二つ。
一つが人工衛星や打上げ用ロケット等を製造する「宇宙機器産業」、もう一つが人工衛星を利用してデータの送受信を行う(利用する)「宇宙利用産業」です。
また、将来的には、宇宙空間上でサービスを行う新たな宇宙産業も登場する見込みとなっています。
現状の内訳では、衛星サービスが2/3を占めているみたいですね。
あるいは、対地球/対宇宙という軸で分けて考えることも出来ます。その場合に重要な点は、
- 対地球:通信、測位、観測技術は既に実用段階
- 対宇宙:天文、探査、居住は研究開発段階
ということです。これからで言えば対宇宙が実用段階に入ってくる他、対地球においてもIoTをはじめとした技術の融合によって宇宙の持つ広域性・同時性を活かしたビジネス展開も考えられます。
では、それぞれの内容を軽く見てみましょうか。
宇宙利用産業(衛星サービス)
一番規模の大きな衛星サービスの枠には、通信放送や、測位(GPS)、リモートセンシングが挙げられます。
- 通信放送(衛星):まず思い浮かべるのはBS放送でしょうか。国際電話サービスもこの衛星を使っているそうです。
- 測位:例としてはGPS=位置情報ですね。まあGPSはアメリカの国家インフラですので、日本は準天頂衛星というGPSより精度の高い衛星を打ち上げています。
- リモートセンシング:打ち上げた人工衛星からデータを収集して売る、一般的な衛星サービスのイメージはこちらです。データとしては例えば高度、位置情報、気象情報等でしょうか。図を見ての通り、衛星サービスの中でもコンシューマ向けの割合が圧倒的に大きく、この分野は競争が激化しています。
宇宙機器産業(衛星製造~打ち上げ)
衛星とかロケットを造って打ち上げる、花型の産業ですね。ざっくり衛星一機200億円、打ち上げ100億円くらいかかるそうです。
特徴としては以下が挙げられます。
- 少量生産:一台のロケットしか造らないため、少量の部品で済みます。逆に言うと、大量生産によるコスト減は出来ません。
- 厳格な規定と高度技術:姿勢制御、推力、高雑音下通信、熱対策など様々な技術を要求され、規格も厳密に決められます。
- プロジェクト単位の長期化:1プロジェクトで10年くらいかかるので、投資回収期間も非常に長くなります。国のバックアップ必須です。
ここまで読むと収益力はそこまででもないと思われるでしょう。確かに今のところはそうですが、小型化や民間委託も進んでビジネスの幅が広がり、これから需要も増してくると思われます。
海外では、あのイーロン・マスクが立ち上げた米ロケットベンチャーSpaceXという会社が急激に台頭しており、Airbusをはじめとする伝統的航空事業と競争しているという実情があります。
新たな宇宙産業
火星着陸、宇宙旅行、資源・エネルギー獲得競争などです(後述します)。
また、こんな記事もありましたのでご参考まで。
技術要素(日本の優位性)
特許出願件数等で見ると欧米にやや遅れを取っていると言われる日本の宇宙ビジネスですが、特許庁の動向調査と合わせて見た限り、航空機の材料関連や宇宙分野の利活用関連の技術に日本の優位性があるとのこと。利活用は現時点でも今後も伸びていくであろう分野なので、力を入れてもらいたいです。
具体的な技術要素は以下のようになっていますね。
宇宙ビジネスの市場規模
世界的な市場規模は資料ごとにバラツキがあるものの、現時点でおよそ25兆円規模の市場となっています。
少し前のデータですが、着実に売上規模が拡大していることや、徐々に軍需以外の用途が伸びていることが分かると思います。
世界的な傾向
世界的には六大国――米国、EU、ロシア、日本、中国、インドが牽引していると言われます(左から順に規模が大きい)。
今も世界における衛星の3/4以上は政府向けです(主に安全保障)が、段々と商業化し、日常生活に必要不可欠なサービスになりつつあります。
官需から民需への推移
こちらの内閣府まとめ資料を読んでいただければ分かる通り、国家予算は世界的に横ばい~減少傾向で停滞、一方で民需は年間10%を超える成長率を叩きだしています。
米国を調べると、国が安全保障面での宇宙開発に予算を投じ、衛星サービスについては民間に委託(民間サービスを政府が積極的に購入)するという選択と集中が実施されています。ここは日本が見習うべきポイントですね。
宇宙ベンチャー投資は過去最高となる25億ドル(2015年)
下記記事の通り、宇宙ベンチャーへの投資は年々加速度的に増加していて、いよいよ本格的な盛り上がりが期待されます。
年間25億ドル以上の資金流入 過熱する宇宙投資はまだ続くのか?
日本の宇宙ビジネス
せっかくなのでちょっとまとめてみましょう。
株として考えるなら米国株も含めて成長セクターで技術優位のある企業を探せばいいのですが、日本の立ち位置も結構気になっていたので。
日本は宇宙ビジネスに向いている環境?
日本で宇宙産業に力を入れているといえばホリエモンですね。ライブドア時代から一貫して宇宙産業の重要性を説いてきた人なので、説得力があります。
ホリエモンのインタビュー(NHK)で非常に良い指摘があったので引用します(ビジネス的な旨味は既に見たので割愛)。
日本という地域で見れば数少ない地理的アドバンテージが活かせるのが宇宙産業である。ロケットはISSなどが飛ぶ地球低軌道や静止軌道は東南海上へ。偵察衛星や地球観測衛星が飛ぶ軌道は南へ打ち上げる。ともに太平洋しかなく打ち上げの支障が少ない。この点でロシアや中国は苦労しているのである。ヨーロッパ各国もフランス領ギニアから打ち上げている。打ち上げの適地に加え各産業の集積が必要な宇宙産業が成立する国は少ない。コンパクトにまとまってる日本はアドバンテージがある。
一応、日本と世界とを比較したSWOT分析図があったので、引用させていただきます。
国の後押し
国のバックアップとしては予算面と制度面からでしょう。
予算面、確かに単体の数字で見ると物足りないのは事実です。予算額としては2000~3000億円規模でここ数年横ばいとなっています(横ばいなのは海外も同じですが)。
しかしながら、日本の構造として官需中心のビジネスであることが問題であり、もっと民需が入ってきてくれないと成長は厳しいと思います(JAXAをはじめとして、少ない予算で上手くやりくりして低コストなロケット造りが出来る技術は持っているみたいですが……)。従業員数が年々減っていることも大きな問題点だと言われます。
民需を呼びこむためには制度面の充実が必要です。
NASAのように民間企業(宇宙ベンチャー等)へ積極的に仕事を移管したり、資金集めをバックアップしたり、軍事目的で開発した宇宙技術の商用転用を進めたりするべきでしょう。
町工場の部品が国産ロケットを創る
というと「下町ロケット」ですね。
もっと安価な小型ロケットへのニーズ上昇や低い軌道のロケットを民間委託しつつある今、中小ベンチャーが宇宙ビジネスに携わる機会は増えてきていると見ていいでしょう。
今後の宇宙開発、宇宙ビジネス争点、未来像
この内閣府の資料後半に、新しいサービスについての検討が紹介されています。その辺も含めて順不同で思いついたものを書いてみます。
移動手段としての活用
かつて「自分達の競争相手は航空機ではなくバスと電車だ」とかそんなことを言って航空ビジネスを変えたエアバスが、今度はSpaceXと激しいぶつかり合いをしています。面白いものです。
衛星サービスの拡張
上で軽く触れたように、IoTをはじめとするIT技術と融合して、既に実用化している通信、測位、観測技術の一層便利な使い道が開拓されることも予想できます。
火星到達
SFではメジャーな火星移住計画。人類の人口は2100年には頭打ちになっているらしいので、あふれた人員を送るようなことにはならないかもしれませんが。
宇宙旅行
これもSFによく出てくる夢のある未来。宇宙船の中で生活出来るようになったら長期旅行も出来るのでしょうか。
ちゃんと調べると、宇宙旅行には以下の4パターンがあるみたいです。
- 衛星の軌道に乗って地球の周りをぐるぐる回る
- 他の天体へ(一般的な宇宙旅行のイメージ)
- 飛んで重力に沿って落ちてくる
- 宇宙バスみたいな旅行(宇宙を経由して違う場所に落ちてくる)
資源・エネルギーの獲得
わりと近いうちに入るのかもしれませんが、資源問題の解決としても宇宙開発は期待されています。
少し重い図ですが、以下のように宇宙にはたくさんの有望な資源が眠っていて、数十~数百兆円を生み出す事業になると言われています。
ちなみに、日本はこの分野の研究開発において世界トップクラスだそうです(資源に乏しいからでしょうかね)。