投資家、特に短期投資家なら必須科目と言っていい行動経済学、行動ファイナンスが流行ったのは少し前のこと。
今更感はありますが、こういう教養ネタが大好きなもので、記事にしました。
行動経済学ってなにかというと、既存の経済学が前提としていた完璧超人のような合理的経済人という存在を疑い、人間心理を取り入れてより現実に即したモデルで考えようという学問です。
2002年にダニエル・カーネマンがプロスペクト理論でノーベル賞を受賞して以降人気化しました(ならプロスペクト理論から書けよって話だけど^^;)。
実例交えた書籍も色々出ていて、読んでいると面白いです。
また、行動経済学を投資に取り入れるにあたり、最もオススメの本はこちらです。少し古いですが、新書の分量でスッキリまとまった良本だと思います。
そうそう、心理学は「なんか人を操る学問」ではなく、行動観察や実験によって普遍的な法則を導き出す「科学的」なアプローチを取ります。
科学的というのはつまり、再現性があるということです。
アンカリング効果とは
上で挙げた本に載っている実験結果の中で一番面白いものはこんな話です。
- 「65」と「10」の2つの数字をランダムに出すルーレットを使う。
- 参加者はルーレットの止まった方の数字を用いて、「アフリカ諸国の中で国連に加盟している国は65%(あるいは10%)あるかないか」という質問をする。
- 実験結果は65のルーレットに止まった人は平均45%と言い、10のルーレットに止まった人は平均25%と言った。
何の関係もないはずのルーレットの数字が、まるで船の錨(アンカー)のように重しになって、船(自分の回答)をその周辺に留めているのです。これをルーレットの数字以外の経験則や見聞きした情報に読み替えても同じことです。
こんなことから、日常のマーケティング活動でよく使われています。
例えばメニューに1つとても高い料理を置いておくとか。インパクトがあるので意識が引っ張られ、2番目に高い料理がさして高く感じなくなるのです(1番よく売れるのは1番安い価格帯と、2番目に高い価格帯)。
「◯◯%オフ!」みたいな表示もそうです。別に私が買う価格は変わらないのに、ありもしない定価を高く見せることで、感覚がそちらに引っ張られるわけですね。「本日限定!」とか「先着◯名様!」も同様。
関係ない数字であっても刷り込めればOKなので、あちこちで使われるテクニックなのです。
アンカリング効果が株式投資に与える影響
で、そのアンカリング効果は実際の株式(FX)投資でどのように生きているのでしょうか。
投資実例(ダメな例)
ちょっと雑な例で申し訳ないですが、FXのチャートで見てみましょう。
この最後の足で押し目買いポイントに見えますが、でも急な上昇だからもう少し調整してふるい落としにかかるかな~という場面。
で、悩んでいるうちにまた上がってしまいます。狙ってて分かってたのに買えないというストレスを受けたまま相場が着々と進みます。
そうするとよくやってしまうのが、もう一回落ちてきたとき。
「やった、買える!!」こんな風に思ったりしません?
でも冷静に考えてください。もう当初の押し目買いの購入パターンから外れています(私はこの例だと飛びつかないのですが、人によってはまだ押し目と見るかもしれないですね)。
これがアンカリングです。
上の例はPivotにかかっているので結構大きな節目ですが、それでも相場の需給変動で逆指値注文が置かれるポイントは刻々と変動します。以前悩んだポイントに固執しているのは気づけは自分だけ、という可能性もあるわけです。
これ以外にもいくらでも思いつきます。
- 以前ウォッチしていた銘柄を1年ぶりに見たらめっちゃ下がってた→買おう(株価は高値圏にある)
- 米国株が好調だと聞いた→買い目線のニュースを探して買う理由を固める(一種のバイアス)
- この株だと優待をもらうのに100万円も必要なのに、こっちは50万円でいいんだ→安い!(利回り割に合ってる?)
- リーマンショック水準の株価と比較したら高すぎて買えないわ→機会損失の可能性も(これはなんとも言えないかな)
株価の動きというのは、当然自分のために動いているわけではないです。ところが、自分が一回取引したところ、散々悩んだところは常に別のスカウターで表示されているかのように目立って見えるもの。
相場はまたやって来る
ということを、是非とも覚えておきましょう。
似た話でポジポジ病ってのがあります。
調べるのに費やした時間やお金が惜しいんですよ。悩みに悩み続けて、自分だけが価値を理解していたと自負していたのに、勇気がなくて結局利益を取りこぼしてしまうというのが悔しいんですよね。その気持ちはよく分かります。
サンクコストは意識するなと言われて「はいそうですか」とはいかないのです。結局、長期で見て利にならない行動を取ってしまうというのは人の性ですからね。
いかにして行動心理バイアスを乗り切るか
投資で勝つためには、いかに人間心理に反していく必要があるのか分かると思います。
ひとつの対処方法は、機械的なルールを作ることです。
定期購入
定期的な買い付けルールは株価の高い安いを無視し、余計なバイアスを取っ払って取引が出来るよい手段です。
もちろん投資先がトータル期待値でプラスになる優位性を持っている必要があります。
条件売買
単純にするなら短期MAと長期MAとが交差したから買うみたいなルール。亜種はシストレ。
これも手法の優位性や十分な資金管理の知識があってこそです。
マインド改革
行動経済学が解き明かすのは、普通に投資するとまず負けるという理屈そのものです。
例えばプロスペクト理論では人の損失回避性向について明かしていますが、これは1万円を得られる効用よりも1万円を失う恐怖の方が大きいことが分かっています。
心の痛みを避け、自分にとって気持ち良い投資をすると、「コツコツドカン」、「利小損大」という典型的な失敗に陥ることになります。成功法則は人の数だけあって、失敗法則はパターンが決まっています。
そんな中で自分にあった仕組みを構築していきます。
で、仕組みの構築をしたとして、今度はそのルールを守るマインド改革が必要になるわけです。最初のうちは何度かルールを破って、それが上手く行ったり行かなかったりします。ある人は上手くいかないことで、またある人は大損して、そこで気づくのです。
結局ルールを守ったほうが稼げるということ。
ルールを守れるようになると今度はルールを破ることが苦痛になってくるはず。
そう感じられるようになったとき、皆さんのマインド改革は一歩前へ進んだということです。
一回限りの売買に左右されることなく、その日の感情に左右されることなく、長い目で見て利益を得るための客観的な判断が出来るようになったという証です。
なんだか胡散臭い商材屋みたいな口上になりましたね。笑
オススメしている本の年代が若干古いことからお察しの通り、私がこのあたりを勉強していたのは大学時代の5~6年前になります。
知識のアップデートは都度やっているつもりですが、最近あまり目新しい理論は出ていないように感じます。どうでしょうか。