今回はコモディティの中で原油を扱います。コモディティの説明等は前回の記事をどうぞ。
目次(クリックで飛びます)
投資対象としての原油の特徴
原油と石油の違いは簡単で、原油は地下から産出したばかりの未精製状態のものを指し、石油は原油を精製したものを指します。
最近歴史的安値圏まで落ち込んだ原油。政治的経済的影響の大きなこの商品は、現代の産業においてなくてはならないエネルギーの供給源であり、車社会におけるガソリンの元でもあります。
「石油がなくなったらどうなる?」と聞かれれば、社会活動の停止に追い込まれるほど困ったことになるのです。
需給関係
需要
北米、欧州先進国は今後減少傾向と推測されていますが、中国をはじめとする新興国の産業成長に伴って、全体の石油消費量推移は上昇傾向(伸び率は鈍化気味)にあります。
代替エネルギーの広がりもあるのですが、石油基盤で作られた既存インフラを入れ替えるコストはとても高く、石油需要がある日を堺にぱったりと消えるということはあり得ません。
ちなみに、代替エネルギーへの移管、効率性向上等から、日本の需要見通しはマイナス予測です。日本のように石油を自国で生産出来ない国では、石油資源に頼らないことが国の安定性に貢献することにも繋がります。
とはいえ、現状は最重要資源。そして8割以上を中東からの輸入に頼っています。
オイルショック後に中東依存度は70%を一度下回ったのですが、近年は中国やメキシコのような新興国が自国の経済成長による需要増から輸出原油を減らしているため、再び中東依存度が上がってきています。
供給
主に油田を持つ中東諸国と、天然ガス供給のロシア、シェールガス革命でアメリカが大きな供給元になっています。
昨今の供給過剰はまた色々な思惑があってのことですが、それはまた別で見ることにします。
石油は本当に枯渇する?
石油資源としては残るけど、掘り出せる(採掘コストに見合う)かどうかは分からない。これが一般的な結論です。
石油資源は有限です。上のグラフでは、残り59年で石油が枯渇するという予測が立てられています。ただし、新規油田の発見や採掘技術の進歩、採算性の向上等により、生産量を上回るペースで石油埋蔵量が増加を続けてきた結果、近年の石油寿命はむしろ伸びている傾向にあります。
ではそれが今後も永続するかというと、こんなグラフが出てきました。
既存油田(Existing fields)からの採掘は2040年までに3分の1になると読み取れます。つまり、現段階でもどんどん枯渇していっているけれども、新しい油田を発見して延命している状態なのです。
今後も油田は見つけられるかもしれませんが、一層地中深くから採掘する必要があったり、非在来型石油のような加工に一手間必要な石油であったりとコストが上昇することが見込まれます。
要するに、安い石油がなくなるのです。
値動きの特徴
ボラティリティがとても高い点が何よりの特徴です。倍になったり、半分になったりという極端な動きを繰り返しています。リーマンショック前後1年の値動きがやばい。
価格決定=OPEC
第4次中東戦争以後、元々石油メジャーを通じて世界に石油を輸出していた産油国は、直接輸出取引をするようになりました。彼らはOPEC(石油輸出国機構)という組織を作って会合し、原油の生産量を決定します。完全なカルテルです。
需要と供給の理論に従って、価格が下がれば生産量を減らして価格を釣り上げ、価格が上がりすぎれば生産量を増やして価格を引き下げます。これによって産油国の利益を守っているわけですね。
※価格が上がりすぎると、それまで採算が取れず見送られていた油田開発が進んだり、代替エネルギーへのスイッチが発生し、長期的にはOPEC石油需要の減衰と暴落をもたらします。
OPECの発表は原油価格に何よりも大きな影響を与えることになります。会合は6月、12月の年二回の総会及び緊急会議です。
OPEC加盟国の情報は以下のとおり。中東を中心とした12か国で構成されています。ただし後述のシェールガス革命や中東諸国の政治不安によって影響力は徐々に減衰しています。
原油安は日本経済には良い
サウジアラビアの歳入は原油安により見込みより当初予算の15%減。SWF(ソブリン・ウエルス・ファンド)と言われる政府系ファンドが保有する外国の株売却によって財政赤字を補っているようです。また、エネルギー系の株は世界中で軒並み暴落しており、経済成長の足を引っ張っている状況です。
しかしながら、原油安は可処分所得の増加をもたらし(物価安)、ひいては消費の増大=好景気をもたらします。全体的に言えば、原油安は経済に良い影響の方が多いです。特に資源を輸入に頼る日本では恩恵を受けやすいのです(逆に、もし原油価格が1割上がったら、日本のGDPから2兆円が溶けます)。
株価も一時的には先行き不安から下落しますが、足元の景気がよくなるため、一般的にはまた上昇しやすい相場になります(どっちつかずといえばその通りです)。
米国も今の好調ぶりを見ると悪影響より好影響が上回っているようですが、エクソン・モービルなどは下落しているため、ダウ平均は上がりにくくなると言えるかもしれません。
ドル高=原油価格下落
この理屈は金と同じですね。原油もドル建てで取引されるため、逆相関が働きます。
中東の地政学的リスク
中東リスクが顕在化すると原油価格は上昇します。だって原油が取れる国は中東に固まっているんですから(その割には下がっているんですけどね)。
今のリスクを具体的に言うと、サウジアラビアとイランの覇権争いです。
また、サウジアラビアは世界一の原油埋蔵量を誇る中東の大国で、親米枢軸の要です。対してライバルのイランは核開発問題を理由に欧米各国から経済制裁を受けた悪の枢軸という扱い。
元々両国はイスラームにおける多数派であるスンナ派と、少数派であるシーア派という軸において対立関係にありました。スンナ派を代表するのがサウジアラビア、シーア派を代表するのがイランです。加えて、紛争地域である中東周辺国の混乱によって、サウジとイランは対立を深めています(両国の共通の脅威になっていたイラクの消滅も大きい)。
16年1月にイランとサウジは国交断絶までしています。中東の地政学的リスクが解消されないかぎり、今後も先行きは不透明なままです。
投機マネーの流入
WTI原油先物はOPECから市場へ価格決定権を移すために上場したものですが、現物取引が少なく、投機マネーの流入が激しくなっています。
※WTI原油先物:ウエスト・テキサス・インターミディエートの略で、西テキサス地方で産出される原油のこと。WTI原油先物は、取引量と市場参加者が圧倒的に多く、原油価格の主要指標になっています。
代替エネルギーのリスク
これだけで数記事作れるレベルなので、割愛します。おとなりの電力記事で代替エネルギーの考察をしていますので、合わせて読んでいただけると嬉しいです。
昨今の原油安と今後の見通し
OPECは石油生産量の据え置きを続ける模様。
シェールガス革命→生産量維持という供給過剰が一番の原因
シェールガス革命によって、米国が世界最大の産油国の一つとして原油市場に参入してきました(米国は原油の輸出に踏み切っています)。
それに対抗する形で、OPEC(サウジアラビア)が原油産出量の維持を発表。OPECは過去最高となる過剰供給状態となっております。
その他、ウクライナ危機を端にした制裁下にあるロシアも増産させていることや、代替エネルギー技術の成長、上述のサウジとイランの対立もあって、原油価格は下落の一途を辿っています。
シェールガス革命について
仕組みはこんなの。昔から存在は確認されていましたが、技術革新によってようやく採算コストに見合うようになりました。
世界最大の経済国が、世界最大のエネルギー輸出国になるという点が革命的なのです。
シェールガス・シェールオイルとは、頁岩(シェール)層に封じ込まれ
ているガス・石油で、従来、その生産はコスト的に見合わないものとさ
れてきましたが、近年の開発技術の発達・普及とガス・石油価格の上
昇によって、急速に実用化されました。水平掘削技術を活用し、頁岩層
に水圧でヒビを入れて、ガス・石油を回収するというもので、北米のみ
ならず、中国や欧州等にも豊富に存在していると見られています。
これによって、米国は世界最大級の産油国に浮上しました。2020年には世界一の産油国となる見通しとなっております。
OPECの思惑
このシェールガスを潰したいのがサウジアラビア。シェールガスの登場によってOPECの産出量割合はどんどん下がってしまい、かつてのような影響力を維持できなくなってしまうからです。
その潰し方が原油価格の下落です。シェールガスが採掘コストを劇的に下げてきたと言っても、まだサウジの陸田から採掘するコストより高いのです。損益分岐点の差を活かして、シェールガス事業を立ちいかないようにしてから価格を上げたい思惑が見えています。
シェールガスの生産コストは1バレル60~80ドル、対してサウジアラビアの生産コストは1バレル10ドル以下に抑えることが可能です。もちろんOPECもただでは済みませんが、実際米国のシェールガス生産量は、オイルを採掘する稼働リグ数の減少という形で見えてきています。
OPECが仕掛けた我慢比べですが、落としどころをどこに持ってくるかが問題になると思います。サウジは良くとも、生産量据え置きに反対していたベネズエラ等の新興産油国は財務基盤が弱く、デフォルト→世界金融不安にもなりかねません。
また、大きなニュースとして5月7日でサウジの石油相が交代になったようです→参考。市場シェア維持を優先する路線に変わりはない見通しだそうですが。
ロシアの苦悩
中東以外で突出した生産量を誇るロシアは、経済の7割を天然資源に頼っています。中でも7割欧州に独占的に輸出していた天然ガスは高い利益を生んでいたロシアの金のなる木。
ところが、ウクライナ問題を発端として欧州各国がロシア依存を解消しようと模索をはじめ、同じタイミングでシェールガス革命が起こりました。今も嫌厭されるロシアの高い天然ガスは欧州でも中国でも売れず、日本にパイプライン構想を持ちかけてきたのはそのためです。
こちらの記事がとても分かりやすかったです。
今後の見通し(勝手なこと書いてます)
政治的な混乱が色濃く写っていますが、戻ると思うんですよね、原油価格。そうなると今こそ仕込みの時期だと言えるでしょう。
まずチャートとして底値圏にあります。今まで見てきた中で、停滞の可能性はあるもののゼロにはならないことが原油の価値だと分かると思います。
上昇を阻害している要因は主に政治的要因とシェールガス対抗ですが、どちらもサウジの体力という時間制限があります。政治的要因についてはしばらく混迷しそうですが、シェールガス対抗はそろそろ意味も薄れてきてしまっていることを理解して諦めそうです。結局サウジがやったことって生産調整役の放棄ですから。
そして世界では度重なる金融緩和と中国をはじめとする新興国経済の停滞によって金余り状態です。次なるマーケットを探す上で、歴史的安値に落ち着いている原油市場に注目が集まる可能性は十分あると思います。
2030年くらいまでの長期的視野から見ると、たぶん投資先としては得策ではないんだと思います。代替エネルギーへのスイッチングコストを加味しての石油需要増なので、そういった技術革新が生まれればエネルギーシフトは早まるでしょう。
原油の投資方法
先物は詳しくないのでETFで。
日本においても、原油人気が上がってきています。インバースETF等も上場したため、取引の幅が広がっている点も見逃せません。
ETF
WTI原油先物は原油価格で一番有名な指数ですので、WTIをベンチマークとしたETFを購入すればよいですね。
NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投信(1699)
NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投信
WTI原油価格連動型上場投信(1671)と実質同じ動きをしていて、出来高が多いのでこちらで良いと思います。信託報酬0.5%、まあ日本のETFとしては十分でしょう。
NEXT NOTES 日経・TOCOM 原油 ダブル・ブル ETN(2038)
レバレッジETF。一日の出来高百万株超えという大人気ぶり。信託報酬0.8%は少し高いものの、ただでさえ動きの激しい原油市場でレバレッジをかけた取引が出来るというのは魅力ですね。高値で14,460円、安値で569円てww
レバレッジETFについては以下の記事をご参照ください。
NEXT NOTES 日経・TOCOM 原油 ベア ETN(2039)
インバースETF。こちらの出来高は25,000とそれほどでもありませんが、ここ数年は絶好調でした。
インバースETFについても以下の記事をご参照ください。
United States Oil Fund LP(USO)
米国ETFで、WTI原油先物に連動しています。信託報酬0.45%、出来高が多くて同系統の
United States Short Oil Fund(DNO)
WTI価格のインバースETFです。信託報酬0.6%なので、日本株で良いと思います。
こちらはダブルインバース。信託報酬0.95%のため日本株で良いと思います。
原油に限定せずともエネルギー産業ETFやコモディティ全体ETFへの投資という方法もありますし、原油特有のスイッチングリスクをヘッジ出来るという意味で、検討に値します。
この点は、残りのコモディティETFと称して次の記事で書こうと思っています。
個別株
石油メジャー系の個別株を買うのは十分ありです。大手はどこも「総合エネルギー企業」を冠する企業ばかりですが、原油価格と連動しますので。
- エクソン・モービル(XOM)
- シェブロン(CVX)
- シュルンベルジェ(SLB)
- マラソンオイル(MRO)
- オクシデンタル・ペトロリウム(OXY)
- コノコフィリップス(COP)
- アナダルコ・ペトロリアム(APC)
- ヘス(HES)
- JXホールディングス(5020)
- 出光興産(5019)
などなど。石油関連株を探して見てください。
参考
石油は国の方針に関わるポイントなので、たくさんの資料がありました。以下については、一通り目を通しておくことをオススメします(日本の見通しよりも、世界の需給動向について確認が必要です)。
次はコモディティ全般の記事をどうぞ。
当ブログでは他のオススメETFも紹介しています。気になる方は以下の記事からどうぞ。
以下のリンクから直接飛ぶことも可能です。
銘柄名 (リンク先は分析記事) | ティッカー |
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VTI(米国全株式市場) | VTI |
VYM/HDV/VIG(米国高配当セクター) | VYM/HDV/VIG |
VWO/EEM(新興国セクター) | VWO/EEM |
VDC/XLP(米国生活必需品セクター) | VDC/XLP |
VHT(米国ヘルスケアセクター) | VHT |
VBR/VBK(米国小型株) | VBR/VBK |
VEA/VGK(米国外株式市場:先進国・欧州) | VEA/VGK |
VT/VEU(全世界株式市場) | VT/VEU |
VSS/VXUS(米国外株式市場:小型株) | VSS/VXUS |
日経平均/TOPIX/JPX400 | 1346/1348 |
S&P500/ダウ工業株30種 | VOO/DIA |
パワーシェアーズQQQ | QQQ |
PFF(米国優先株式) | PFF |
1570/1357(日経レバレッジ/ダブルインバース) | 1570/1357 |
GLD/IAU(金) | GLD/IAU |
1699/USO(原油) | 1699/USO |
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